議論に「縦の力」が加わるとどうなる?
私たち一人一人を尊重し、個人の尊厳を守るための「個人の権利・利益の調整」には、縦の関係性の調整と、横の関係性の調整があります。前回の生徒会メンバー同士の議論は、対等な関係性での調整ですから「横の関係性の調整」です。これに対し、学校側と生徒との調整は、「権限を持つ者」と「持たざる者」という「縦の関係性の調整」です。
校則改定の場合、(さまざまな批判や意見はあるものの)原則として改定権限は校長にあるとされており、生徒側にはありません。したがって、極論を言えば、校長先生が「変えたくない」と思ったら、A中学校は現状の校則を維持することができます。これが「力関係が非対称である」ということです。
では、こうした非対称な力関係の下で「生徒の尊厳」を守るために、学校側ができること、生徒たちができることは何か、というのがこのケースの問いであり、現状の校則問題における大きな問いでもあります。
ケースに話を戻すと、冒頭でE先生は生徒会のメンバーに対し、お互いの意見を尊重し合いながら意見をまとめるよう促すものの、最終的な判断権が校長にあることを念押しします。この行為に対してはさまざまな解釈・評価ができそうですが、少なくとも「校則改定のゴール」を明確にした点は評価できると思います。
つまり、生徒会のメンバーたちは、最終的に校長先生さえ説得できれば校則を改定できることを最初の段階で認識することができました。また、その前段階として、職員会議での議論の必要性も明示されていますから、メンバーたちは、先生たちの理解と賛同が必要なことも認識できます。
実際の校則問題では、明確なゴールが示されないまま、生徒たちが懸命に議論するものの、結果として職員会議などで簡単に却下されてしまう事例も多々あります。こうしたことを起こさないためにも、校則の中には「校則改定手続き」も併せて明示しておく必要があるのです。