悪気がなくても相手の権利を侵害する行為

 今回のケースでは、お調子者のDくんの投稿がきっかけで、クラスメートたちがAさんをイジるようになってしまいました。

 いじめ防止法は、いじめの早期発見・重大化防止を目的とする法律ですから、仮にDくんやそれに同調するクラスメートたちに悪気がなかったとしても、Aさんが「心身の苦痛」(いじめ防止法第2条1項)を感じていれば、Dくんたちの行為は「いじめ」に当たります。

 Aさんは、学校を休みがちになるほど精神的なダメージを負っていますから、Dくんの写真の投稿や、クラスメートたちの「姫」イジり、SNSへのうその投稿は、いずれも大人が対処する必要のある「いじめ」といえるでしょう。

 同時に、Dくんの写真の投稿は、Aさんに無断で行われていますから、「肖像権」の侵害(民法第709条、第710条)に当たる可能性が高いです。肖像権は、本人の承諾なしに、みだりにその容貌・姿態を撮影されたり、公表されたりしない権利で、プライバシー権(憲法第13条)の一部と位置付けられています。SNSが発達した昨今では、自分の写真や画像が、意図しないところで無尽蔵に拡散されてしまう可能性もあり、とても重要な権利と考えられています。

 ただ、前回にも触れましたが、子どもたちに「いじめになるから」などという理由ばかりを強調して「やってはいけない」と説いてしまうと、議論が本質から遠のく可能性が高くなります。行為を指摘された側が「いじめ加害者」のレッテルを張られまいと、「そんなことが本当にいじめになるのか」といった点にこだわり、その先の議論に進めなくなるからです。

 したがって、Dくんほか、クラスメートたちには、彼らの行為がAさんの大切な権利や尊厳を傷つけること、実際に傷つけていること、そして、法律はなぜその権利を保護しているのか、といったことを説いていくのがよいと思います。

 さらに、匿名の誰かによる「Aさんがアイドルグループのオーディションに落ちた」というSNSへの投稿は、「公然と事実(真実でなくてもよい)を摘示してAさんの社会的評価を下げる行為」ですから、「名誉毀損」(刑法第230条、民法第709条、第710条)に当たります。私たちが日々懸命に生きていく過程で得られた社会からの“良い評価”は、守られるに値する大切な価値であると、法は考えているのです。したがって、Aさんは、投稿の削除請求などを検討していくことになります。

 近年、プロバイダ責任制限法が改正され、インターネットにおける匿名の誹謗中傷について、行為者がより特定されやすくなりました。誹謗(ひぼう)中傷を行ってはならないことはもちろんですが、“匿名だから”といって安易に投稿をしてしまうのは決して自分のためにならないことを、子どもたちも知っておいた方がよいでしょう。