増えていく一方の「無偏差値」と「ボーダーフリー」

 大学入試難易度ランキングには、「実態ランク」と「予想ランク」がある。受験生の成績に個々の大学入試の合否結果を調査して、模試成績にこれを付加する。偏差値帯ごとに合否を分けて集計、その合否分布で合格者と不合格者が半々となるところを「ボーダーライン」として、その大学の募集単位のランキングとする。これで「実態ランク」ができ、新年度の入試に向けては、各回の模試の志望者の動向を加味して「予想ランク」を作っていく。

 昨今の大学入試は、募集単位が細分化されて個々の入学定員も小さくなっている。それに加えて、少子化に伴い募集単位ごとの志願者数が少なくなった結果、データが不十分なケースも増えており、「偏差値」が付かない「無偏差値」の入試も増えている。こうした場合には、共通テストでの得点率が目安として付記される場合はあるのだが。

 また、個人情報保護の観点から、模試受験生の実際の大学の合否状況を把握しづらくなってきている。さらに入試自体が緩和して、不合格になる受験生が少なくなり、合格者と不合格者がフィフティ・フィフティになるボーダーライン(偏差値帯)を定められないケース(=ボーダーフリー)が多くなってきた。その結果、合格可能性判定が要らない、「ボーダーフリー」な大学が増えている。

 保護者世代が大学受験をした頃は、ランキングの偏差値帯が50を下回る大学がほとんどなかった。平均点では、どこの大学にも受からないのではないか、との不安があったと思う。これから大学入試に挑むお子さんの時代は、自分たちの経験とは全く異なる状況になっていることを理解しておきたい。

 この連載でも繰り返し述べてきたように、大学入試において、学力試験をメインとした一般選抜の割合は年々減少傾向にある。一般選抜を想定している「偏差値」は、その大学への入りにくさを必ずしも表すものではもはやなくなっている。

「偏差値帯」という偏差値2.5刻みでの大雑把な物差しでしかない「偏差値」は、あくまでも“目安”に過ぎない。高校における進路指導の弱体化と大学情報の膨大さもあって、「偏差値」が“目安”以上の働きをしてしまっているのは、あまりいい状況とは思えない。

 では、模試と「偏差値」は、その役割をすでに終えたのかというと、必ずしもそうとは言い切れない。模試は、自分の学習状況を把握するための「アセスメント」として利用すればよい。不得意分野での自分の現状、他の生徒や他の高校との相対的な位置付けを把握できる。模試の合格可能性判定については、あくまでも必要に応じて参考にすればいい。上位層にとっては、まだ機能する大学があるからだ。つまり、模試は使いようであり、大学入試においてもはや絶対的なものではないことを知っておきたい。

「偏差値」が、大学の価値を示すものなのではないことは言うに及ばない。保護者世代の大学入試とは様相が変わっているので、その変化は大いに考慮すべきであることを重ねて申し上げておきたい。

※次回に続く