これからの国立大に不可欠な要素
戦後設立され、改組されてきた国立大は、師範学校の後継となる教育学部、新設された医科大学など医学部、エンジニアを養成する工学部が中心をなしてきた。とりわけ工学部は、地方の私立大では担うことが難しいことや、地場産業の振興には元来欠かせないものでもある。国立大には工学部の役割は不可欠で、最も募集定員の多い学部となった。産業構造の転換が進む中、地方での就職先は公務員かインフラ産業がまず想起されるが、地方創生の観点からは、工学部的な教育の場は欠かせない。
一方で、医学部同様に全都道府県に置かれた教育学部はどうだろうか。教育学部が地元の教員不足を補うことにはなっていない。かつて教員養成系大学の学長に「なぜ、教育学部を出て教員にならないのか」と尋ねられたことがある。
「経済的な不安が少ない大学に進学することをまず第一に望む受験生は少なくない。しかも地方では、選べるほど大学があるわけではない。つまり、教育学部を選んだのではなく、国立大を選んだんですよ」と答えたことがあった。その傾向は、コロナ禍で地元志向が強くなっている昨今、ますます強くなっているのではなかろうか。教育学部が元来の役割を果たせていないのであれば、早々に改組転換するべきではないだろうか。
国際型「G」と地域型「L」とに国立大も二分化されていくことを考えると、英誌THE(タイムズ・ハイア-・エデュケーション)が毎年発表する「世界大学ランキング」は、一つの示唆を与えてくれるかもしれない。
東大や京大が何位になったかなど、ランキング上位の動向がことさら喧伝されているが、世界中からエントリーされている104カ国と地域の1799大学(2023年)のうち、日本の大学は273を占めている。確かに、世界ランキングベスト100には東大と京大しかないものの、それに準ずる位置には多くの日本の大学の名前が見られることにも注目しておきたい。
同様のことは義務教育修了の15歳を対象としたOECDによるPISA(学習到達度調査)でもいえる。2018年の結果を見ると、読解力は15位、数学的リテラシーは6位、科学的リテラシーは5位と平均よりもだいぶ高いのだが、突き抜けたものがない。
この世界大学ランキングとPISAの結果を合わせて考えると見えてくるものがある。日本の場合、平均値は高いのだ。「PISAでは優秀なのに、なぜ、世界大学ランキングは芳しくないのか」とよく言われるが、それは一面的な見方でしかなかったと思う。実は、大学でも平均値は高いと言っても良いからだ。