探究を通じてキャリアを描き
起業も視野に置く生徒も
とはいえ、フェーズ5のコンペ参加は、芝浦式イノベーション教育の一つの通過点であり、キャリアの入り口にすぎない、と両氏は考えている。
一般に、アイデアを競うようなコンペは広く社会と関わる公共性が高いものが多く、一つのテーマで同年代の高校生や大学生、時には社会人が参加するものもある。そこでチームでまとめ上げた新たな製品やサービスのアイデアや研究成果を社会に問う。どのような評価を得るにせよ、そこには、現実の社会との接点ができる。
また、チームビルディングまでの過程で、自分が将来進みたい方向を見つける生徒が多く、コンペに向けたプロセスでは、他者との協働の重要性に触れられるのだ。
フェーズ3までで自分と向き合い、自分の興味や考え方、得意なこと・苦手なこと、できること・できないことを突き詰め、それを公開することで自分と他者との違いや共通点を把握する。フェーズ4のチームビルディングにおいては、両氏が折に触れ、高校1年次から提供してきたコンペの情報や大学での研究内容などを考え合わせ、気の合う仲間同士ではなく、やりたいこと、また参加したいコンペなど明確な目標を共有したメンバーでチームを構成する。
チームの目標だけでなく、各人の興味や得意分野、できることを全員で共有した上で、自分が参加したいチームへのエントリーや欲しい人材のスカウトなどを経てできた、いわばプロジェクトチームである。実際、この段階で、多くの生徒が将来進みたい方向のテーマやコンペを選択しているという。
また、コンペは年間を通して各種開催されているので、チームによっては早々にフェーズ5まで進んでしまうこともある。その場合には、以下の三つのやり方でもう一度、深化/探索のサイクルを回す。
(A)同じチームで、同じアイデアをブラッシュアップするか、別テーマで別のコンペに参加する。
(B)1年後の同じコンペに、自主的に3年次の課外活動として挑戦する。
(C)総合型選抜や推薦入試を視野に、コンペまでのプロセスをまとめなおして活動を総括する。
(A)を選択するチームが圧倒的に多いが、(B)の来年同じコンペに再チャレンジを狙う生徒の他、少数ながら(C)を選択する生徒もいるという。
今井氏は、「大学入試に限らず、生徒たちの今後のキャリアにとっても、プロセスを総括して記述できることは重要です」と語る。
山岡氏は「生徒が自主的に3年になってもコンペに出たいと、自分たちの選んだテーマに積極的に取り組んでいることはうれしい」と話す。
最初は賞の獲得狙いだったのが、やっていること自体が楽しくなった、将来のキャリアが見えた、自分の興味がどこにあるか分かったという生徒たち、さらには、本気でものづくりをして、起業も視野に入た社会実装を目指す生徒もいるという。
探究学習1期生の高校2年次の生徒たちの様子から、「将来につながる学習活動になってきた」と今井氏は手ごたえを感じている。
高校1年次の自己深化レポート(フェーズ3)の段階で、「キャリアや進路の決定に結びついたという声が多くあり、キャリア教育にも確実につながっている」と実感しているという。当初からの目的であった、探究学習とキャリア教育との連携が結果として現れているようだ。