「提供を受けたい配慮」を受験生自身が発信せよ

 現実問題として、合理的配慮を受ける学生一人一人の事情を考慮しながら全体のカリキュラムを運営していくことは、大学にとっても決して容易なことではない。

 例えば、大学での合理的配慮の研究に力を入れている私立B大学では、学生課職員が、場所の認知が困難な学生のために授業に遅刻した場合の対処法を考えた。それは、電車に乗るとき、場所ではなく乗車時間で大学の最寄り駅を認識して下車するというものだったが、これだと電車が遅延した場合に別の駅で下車してしまう。そこで、この学生のために「遅刻ルール」を作成した――。

 合理的配慮の具現化には、常にこうした試行錯誤が要求される。学生が目の前で抱えている困難に大学が一緒に向き合い、経験を重ねることでより具体化していく。法律で義務付けられたからといって、ある日突然、形になるものでもない。

 一方で殿岡氏は、「最も重要なのは、どういった支援や配慮があれば大学生活をスムーズに送ることができるか、学生自身が大学側に積極的に伝えること」と述べる。そのためには、高校の進路指導の段階でも、障害のある生徒が大学進学に必要な支援や配慮の内容を、教員が共有しておく必要があるだろう。

「多少の困難があっても、大学に進学したいというモチベーションを高めてほしい。『大学案内 障害者版』がその一助になれば幸いです」(同氏)