何とか払ってやりたい親心、しかし、払えない人も多いのが現実

 親の気持ちとしては、子どもが浪人して苦労することを思えば、自分のために使うおカネを切り詰めてでも、合格した第二志望の大学に入学金を納めて入学先を確保してやりたいと考えるだろう。第一志望の大学を受ける際も「すでに大学生になる権利を得ている」余裕は、受験生にとって大きな心の支えになる。

 都内に住むある受験生の父親は、40年前、自分の親に第二志望の大学に入学金を払ってもらったが、結局その大学には通わなかった。無理をしておカネを工面してくれた親への申し訳ない気持ちが今も忘れられない。自分が親の立場になって改めて「二重払いは、甘んじて受け入れざるを得ない親心に寄りかかる仕組みだ」とこぼす。

 しかし、長期間にわたって景気が低迷する今日、必ずしも経済的に余裕がある家庭ばかりではない。「家庭の経済環境の違いで受験機会に差が出る今の制度はおかしいのではないか」――そんな疑念を抱いた五十嵐氏ら有志が、入学金の二重払いに関する問題提起を始めたのは21年、同氏がまだ大学生のころだった(当時は『入学金納入時期延長を求める有志の会』)。

 同年「有志の会」は、オンライン上で「入学しない大学には入学金を払わなくていいようにしてください!」という主張に賛同を求める署名活動を開始、1カ月で3万7000筆を集め文部科学副大臣に提出した。

 24年のアンケートは、3年ぶりに集まった当時のメンバーが中心となって実施したものだ。「入学金を払ってほしいとは言えない」という前述の受験生の言葉をきっかけに、自分たちの受験生時代と何ら変わらぬまま、二重払いの不条理が大学卒業後も続いているというやり場のない気持ちに駆られての行動だった。

 アンケート実施に必要な業務はメンバーが仕事の合間を縫って協力し合い、必要な資金はクラウドファンディングで賄った。この姿勢に共感する多くの人々が協力を申し出た。25年6月には、現文部科学副大臣に要望書を提出するなど、行政にも継続的に働きかけを行っている。文部科学省が「通知」を発信したのは、その直後だった。

 大学の入学金を巡っては、最高裁判所が06年、入学金は「大学側が入学できる地位を与える対価」であると判断し、納入された入学金は「返還する義務はない」と判決している。同プロジェクトの活動も「進学しなかった大学に入学金の返還を求めるためものではない」と五十嵐氏は断言する。

 大学ごとに入学金の納付期限が異なるために生じる二重払いの構造は、大学側が一方的に決めたルールに起因するものであり、受験生側はそれに従うしかない。これによって「受験機会を奪われている受験生が大勢いること」を多くの人に知ってほしいと同氏は訴える。その上で「入学金納入期限の延長」「入学金の金額や納付期限設定の根拠、妥当性の検証」などを要望として打ち出している。

 大学は、今回の文部科学省の通知をどう受け取っているのだろうか。次回は、大学の対応を見てみると同時に、受験と大学入学にかかるおカネについて考えてみたい。