解ける=分かる?

 1年生の1回目の授業で、私は学生にこう問い掛けるようにしている。

 「いままで自分が受けてきた授業の中で、一番印象に残っている授業はどのようなものでしたか」

 すると、ほぼ100%の学生が「分かりやすい授業」と答える。

 これに対して、「分かるってそもそも何?解ける=分かる、ですか」と問い直す。

 例として私は、「分数同士の割り算『3/5÷2/3』はなぜ『3/5×3/2』とひっくり返すのですか」と質問すると、その理由を説明できる学生はほぼいない。

 「小学校6年生の教科書にその理由がきちっと書いてありますよ」と言っても、説明を受けた記憶のある学生がほとんどいない。「そこは覚えておきなさい」で終わらせている例がままある。この事実から、小学校では、「そこまで丁寧に教える余裕がない」という実態が浮かんでくる(そもそも小学校の教員の多くは「理系科目(算数、理科)が苦手だから小学校の教員になったという人が多い)。

 中学校の数学で学ぶ、「マイナスとマイナスを掛けると、なぜプラスになるのか」についても、1つ1つ学生に問い直していくことで、学生は「いままでただ『解き方』を覚えてきただけで実は何も分かっていなかった」ことに気付く。数学科教員の卵である学生を教えていく過程は、これまで彼らが培ってきた「価値観」を4年かけてつぶす作業となる。それは「悪の再生産」を止めることでもある。

 学生は分かることで、数学はこんなに楽しいのか!と再認識してくれる。

 11年間、県立高校で教えた経験から、問われていることの意味が分かれば、高校生は数学から脱落せずに済むことが分かっている。

 しかし実際は、進学校では大学入試に対応するため、質よりも量、そしてスピードということで、いかに早く50問を解くかが重視される。授業を早く進めて、テスト対策のドリルを重ね、カラダに染み込ませるというやり方は、目先の定期試験では効果を発揮するのだが、1ヵ月もたつと忘れてしまう。その結果、高3になってから数学を学び直すという非効率的な悪循環に陥る。

 10問をきちんと教えることで50問が解けるように、正しい学習方法で「基礎・基本」を養うことが重要だ。「急がば回れ」で、基礎学力という土台をしっかり築いて、最後に結果を出すよう逆算して、単なる「受験学力」で終わらない「真の数学力」の定着を意識して指導する必要があろう。