数学教室で学ぶ生徒。たった一度の体験で子どもは変わることができる

「アウトプット」で子どもは変わる

 「分かった」ら、次のステップは何か。自分で疑問を持つことである。How(ノウハウ)からWhy(なぜ)を追究する学習であり、この学び方のキーワードは「対話」である。

 教員の指導力とは、数学力+対話力であり、それはティーチングからコーチングに向かうことでもある。答えを教え込むのではなく、対話をしながら生徒の問題意識を高め、自分たちでゴールに向かって進むように仕向ける。

 例えば、私は90分1コマの出前授業をすることがある。そこでは最後まで結論を言わず、モヤモヤを残した状態で終わらせる。すると、生徒はその後みんなで話し合っている。いまの時代、本でもネットでも考えるための手助けはたくさんあり、ほとんどの問題は解決できる。究極的な主体的な学びとは、先生要らずの状態である。

 私が担当している企業主催の親子算数教室はどの企画よりも人気が高い。全く勉強しない子どもに算数を好きになってほしいという保護者と、受験に役立つかもしれないと参加する保護者と2つのタイプに分かれる。

 教室を始めるにあたって、「今日のルールは絶対に教えないこと」と宣言する。数学は答えを出すまで試行錯誤して考え抜くことで力が付く。答えを教えるということは、ここを奪ってしまうことでもあるからだ。

 そうした状況の中で、特に目立つのは後者のタイプの保護者で、一緒に考えるワークショップの場合でも、2~3分たつとすぐに子どもに教え始める。要は親が我慢できないのだ。そうした親と一緒に参加している子どもは、絶えず親の表情を気にしていて心から楽しんでいないように見受けられる。結果的に「算数嫌い」を作ってしまう。

 小学生特別教室「不思議な計算」と題した授業では、このような問題を出した。

 十の位と一の位を入れ替える
 36×42 → 63×24  

 すると、あら不思議! 
 36×42=63×24=1512

Q こんな不思議なことが起きる2ケタの数を(36、42)以外に5組見つけなさい。

Q この「不思議な計算」が成り立つ2数にはどのような規則(法則)があるのかな。

(注)文字などを使わず、頭の中でイメージして考えてみよう! 

「親子算数教室」の目玉企画の1つに、「子ども先生」というプレゼンタイムがあり、何人かの子どもたちが前に出て発表する時間がある。時には答えが間違っていることもあるが、決して否定せずに、視点や考え方がユニークな場合はそこを徹底的に褒める。

 このプレゼンタイムでガラッと変わる子どもがいる。その姿を見て、感激して母親は泣きだしてしまう。子どもが勉強をしないその壁を、親が作ってしまっていたことに気付くからだ。

「勉強しなさい」と言っても子どもは勉強しないものだ。親の役割は、子どもが安心して学べる学習環境をサポートすることにある。さらに、アウトプットする場を作ることができれば最高である。

 「今日は何習ったの」
 「分数」
 「へぇ、お母さんにも教えてよ」

 こうして直接聞くことで、子どもは喜んでアウトプットする。これを繰り返す「対話」が子どもの自信を培っていく。親の役割は、それは違うと否定することではなく、ひたすら聞くことであり、褒めて認めることにある。親や先生に褒められると、子どもはもっと工夫する。

「探究」の授業が高校などでは始まっている。こうした学びの本質はアウトプットにある。ベースとなるのは小中での算数と国語の学習だ。学校、塾、家庭において、算数、国語の徹底的なアウトプットこそが探求の土台をつくると考えられる。