情報Ⅰが必修化された理由

 情報Ⅰが高校で必修化された理由は、ITの普及と技術の進化に対応するための知識とスキルを次世代に伝える必要性にあります。AIやIoTの技術が進む現代において、プログラミングやITに関する知識はビジネスの現場で必須のスキルとなりつつあります。これからの時代を生き抜くために、情報リテラシーの向上を目指す教育の重要性はますます増していくのです。

 たとえば、2015年に発表された野村総合研究所とオックスフォード大学の共同研究では、10〜20年後に日本の労働力人口の約49%がAIやロボットによって代替可能になるとされています。これにより、従来は人間が行っていた作業の多くが自動化される一方で、人間にしかできない創造的な仕事へのニーズも増加していくと考えられています。

 情報Ⅰの学習を通じて、プログラミングやデータ分析など、AIやIoTにはできない人間ならではの思考力や問題解決能力を養うことが求められているのです。こうした背景から情報Ⅰが必修化され、次世代の学習者に対してITリテラシーやプログラミングスキルの習得が求められるようになっています。

大学受験における情報Ⅰの重要性

 2023年12月に東京大学が発表した入試方針では、共通テストにおける情報Ⅰの点数が、文系・理系を問わず10%を占めることが明記されました。一次試験の合格、いわゆる「足切り回避」の判断基準となる共通テストにおいて10%という割合は、なんと英語のリーディングや数学IAと同じ配点です。情報Ⅰは、決して無視できる科目ではないのです。

プログラミング知識の需要と重要性

 高校だけでなく、小学校や中学校でもプログラミングが必修となっていることからも明らかなように、プログラミングスキルは今後ますます重要となっていきます。現在、日本は深刻なIT人材不足に直面しており、経済産業省の調査によれば、2019年の時点で約17万人のIT人材が不足しているとされ、2030年にはその不足が最大で約79万人に達することが予測されています。このような状況の中で、ITに関する知識やスキルを持つ人材の需要はますます高まっていくことでしょう。

プログラミング学習のポイント

 情報Ⅰにおける最大の難所は、プログラミングといっても過言ではないでしょう。特に「反復処理(ループ)」や「条件分岐(if文)」の理解が難しいと感じる生徒が多い傾向にあります。これらの概念は、プログラミングにおいて基礎的でありながらも、その理解には時間と努力が必要です。

 授業での指導では、プログラムの手順を視覚化する方法や、具体的な例を用いた説明が効果的です。たとえば、プログラムが何をしているのかを一つひとつ確認しながら進めることで、生徒が理解を深めやすくなります。また、コードをいきなり書かせるのではなく、まずは手順や処理内容を紙に書き出させ、それをもとにプログラムを作成させる方法も有効です。

パソコン教室では太刀打ちできない情報Ⅰ

 このような状況において、情報Ⅰは高校生や大学生だけでなく、社会人にとっても必須の教養といえます。かつては「パソコン室でExcelをいじるだけ」だった情報という科目は、いまやExcelのみならず、著作権やネットワークの仕組み、プログラミングの穴埋め問題に至るまで、座学による幅広い知識を扱う科目に進化しています。

 全国の国公立大学は、文部科学省から「情報Ⅰを受験科目として必須にする」ことを推奨され、次々と対応しています。大学によっては、数学や理科よりも情報Ⅰの配点が高い場合もあり、情報Ⅰで高得点を取ることが志望校合格の鍵となる可能性さえあります。

 また、情報ⅠとITパスポートの出題範囲は異なります。情報Ⅰの対策としてITパスポート試験対策の本を推奨する指導者もいますが、両者の範囲は異なるため、受験生はその違いを理解し、情報Ⅰに特化した学習を進めることが必要です。

 特に東京大学では、共通テストの合計得点1,000点のうち100点が情報Ⅰに割り当てられており、前述したように数学IAや英語リーディングと同じ配点です。情報Ⅰは受験において無視できない科目であり、早期からの計画的な学習が大学合格の鍵を握ります。

情報Ⅰ試作問題
情報Ⅰ試作問題 出典:大学入試センター

情報Ⅰの対策はいつから始めればいいの?

 多くの学校では、情報Ⅰを高1または高2で学びます。そのため、高3の夏以降に改めて「さて情報Ⅰをやろう!」と一念発起したとき、大部分を忘れていることが多いのです。予備校で情報Ⅰを教えている私のSNSには、毎日のように「情報Ⅰの対策が不安です」という相談メッセージが届きます。では、いつから対策を始めればよいのでしょうか?

プログラミングが苦手な場合:高1からの学習計画

 情報Ⅰは100点満点中、約40点がプログラミングやコンピューター関連の出題になると言われています。そのため、プログラミングばかりを対策すればよいというわけではなく、高得点を狙うためには、プログラミング分野の穴埋め問題を正確に解答できる力が求められます。

 プログラミングが苦手な生徒にとって、この分野は特にハードルが高いと感じるかもしれません。そこで、高1からの早期対策が重要になります。基本的なプログラミングスキルを身につけ、複雑な問題解決能力を養うことで、後の学習がスムーズに進みます。

 一般的にプログラミング学習は、PythonやJavaScriptなどのプログラミング言語を用いて、簡単なプログラムを作成する練習から始めることが効果的です。しかし、ことに共通テストにおいては、実践すればよいというわけでもありません。というのも、共通テストは穴埋め形式で出題され、大部分のプログラムは問題文の中で提示されるためです。

 プログラムの作成が求められるのではなく、長文の日本語の会話文を読解し、「何をコンピューターに命令したいのか」を理解し、それを「コンピューターが理解しやすい命令としてどう表現するか」翻訳するテクニックが問われます。そのため、小学生向けのプログラミング教室に通うだけでは満点を取れるような性質の出題ではなく、総合的な読解力と論理的思考が必要です。

 次に、データの収集や分析、ネットワークの基礎知識を身につけることが求められます。これにより、情報社会で必要とされるスキルをバランス良く習得することができます。また、情報倫理や情報セキュリティといった、現代社会における必須の知識もこの時期に学んでおくとよいでしょう。

プログラミングが得意な場合:高3の夏からの学習計画

 プログラミングに自信がある生徒の場合、情報Ⅰの対策を始めるタイミングは高3の夏からでも十分です。基本的なプログラミングスキルがすでに身についている場合、共通テストで8割の得点率を目指すことが可能です。

 この時期からの学習計画としては、まず共通テストの形式に慣れることが重要です。過去問や模擬試験を活用し、出題傾向や問題の解き方を把握しましょう。プログラミングが得意な生徒であれば、演習問題を短期間で効率的にこなすことで、解答スピードと正確さを磨くことができます。

 また、ネットワークとデータの分析に関する知識の補強もこの段階で行うとよいでしょう。これにより情報Ⅰ全体の理解が深まり、バランスの取れた得点力が身につきます。さらに、情報社会や情報デザインに関する内容についても再確認し、出題範囲を網羅することで、8割以上の得点を安定させることができるでしょう。

9割の得点率を安定させるために必要な勉強方法は?

 共通テストで9割以上の得点率を安定して狙うためには、プログラミングスキルだけでなく、情報Ⅰ全体に対する深い知識と優れた読解力が求められます。具体的には、以下の点に重点を置いた学習が必要です。

1.知識の網羅

 情報Ⅰの各分野について、広範な知識を持つことが必要です。特に情報社会や情報デザイン、ネットワークとデータの分析など、プログラミング以外の分野も含めたバランスの取れた理解が求められます。情報Ⅰで要求される知識は、周辺知識も含めると非常に広範囲です。どんな出題にも動じない知識を身につけるには、多くの時間を要します。

2.読解力の強化

 共通テストの問題文は、複雑な表現や状況設定が含まれることが多いため、文章を正確に読み解く力が必要です。これは、情報の整理や分析、デザインの問題を解く際に特に重要です。日常的に複雑な文章に触れることで、読解力を鍛えることができます。題材としては、インプット用の学習参考書を推奨します。たとえば、学校で習っていなくても読んで理解できる 藤原進之介の ゼロから始める情報Ⅰ(KADOKAWA)を通読するだけでも、初めて知る情報科学の専門用語を「これってどういう意味なの?」と考えながら読み進めることで、読解力を鍛えることができます。

セロから始める情報1
出典:KADOKAWA

3. 実践的な問題解決能力の養成

 実際に情報Ⅰの過去問や予想問題を解き「こうやって出題されるのか!」と実感することで、実践的な問題解決能力を磨くことができます。過去問対策では共通テスト新課程攻略問題集 情報Ⅰ(教学社)、予想問題では『2025 共通テスト総合問題集 情報Ⅰ』(河合出版)の完成度が高いとされています。この力は、特に高得点を狙う際に決定的な役割を果たします。具体的には、「ライセンスフリー」という単語の意味を理解していたとしても、ライセンスフリーが「QRコード」とどのようなつながりから出題されるかを身をもって理解するためには、共通テスト予想問題を解いてみることが一番の近道です。

まとめ

 情報Ⅰは、プログラミングスキルだけでなく、文系・理系の幅広い知識とスキルをバランス良く学ぶ科目であり、大学受験において重要な役割を果たします。プログラミングが苦手な生徒は、高1から早めに対策を始めることで、共通テストでの高得点が期待できます。一方で、プログラミングが得意な生徒であれば、高3の夏からでも8割の得点率を目指すことが可能です。

 さらに、9割以上の得点率を安定させるためには、知識の網羅と読解力の強化が不可欠です。情報Ⅰの重要性を理解し、早期から計画的に学習を進めることで、志望校合格への道を切り開くことができるでしょう。