情報ⅠとITパスポートは何が違うのか?

 情報Ⅰは近年、日本の高校で必修科目となった情報分野の基礎的な科目で、情報社会におけるリテラシーやモラル、デジタル技術の基本を学ぶことを目的としています。対して、ITパスポートは、社会人や学生が企業や社会の中で役立つITスキルを測るための国家資格です。

 ITパスポートは、情報Ⅰよりも範囲がはるかに広く、企業の経営や戦略におけるITの役割や実用性も重視しています。かといって、「情報Ⅰは簡単なのか?」というと、決してそうとは言いきれないのです。

 情報ⅠとITパスポートは似ているようにも見えますが、対象としている知識の領域は異なります。試験の内容にも大きな違いがあり、それぞれ異なる目的を果たすものです。

 何を目的とした試験なのかという観点で、2つの試験を比較します。

情報Ⅰ:大学受験で高得点を目指すための試験

情報Ⅰ試作問題
情報Ⅰ試作問題 出典:大学入試センター

 情報Ⅰは、大学受験において共通テスト(旧センター試験)の必須科目となっており、東京大学をはじめとする国公立大学を受験する生徒にとって重要な教科です。受験生の多くは70%以上の得点を目指すため、しっかりと理解を深める必要があります。

 範囲が限定されているため、一見簡単に思えるかもしれませんが、その分、深い理解と正確な知識の応用力が求められ、読解力や考察力が重要です。特に高得点を取るには、試験問題の出題意図を正確に読み取り、複雑な思考力を要するパズル的な問題も解けるようになることが不可欠であり、難易度は高まります。

 つまり情報Ⅰは、「狭く深く」が求められる試験なのです。範囲が狭い分、知識を活用する力や考察力が必要とされるため、単に暗記に頼るのではなく、基礎を深く理解することが高得点への近道となります。

ITパスポート:バランスが重視される社会人向けの広範な知識

 一方、ITパスポートは、社会人や学生がITリテラシーを証明するための国家資格であり、ビジネスの現場で即戦力となるための広範な知識が必要とされます。試験範囲は、「ストラテジ系」「マネジメント系」「テクノロジ系」の3分野に分かれ、それぞれが企業活動のさまざまな側面に関わります。

 試験合格のためには、3つの分野のどれかが30%を下回ると不合格になるため、バランスよく全体的な基礎を押さえることが重要です。ITパスポートは「広く浅く」が求められる試験であり、深掘りした専門知識ではなく、各分野の基礎的な理解が求められます。

 たとえば、「ストラテジ系」では経営戦略やマーケティング、「マネジメント系」ではプロジェクト管理やリスク管理、「テクノロジ系」では基本的なIT技術やネットワークの仕組みを学びます。合格のためにはこれらすべてに一定以上の得点が必要であり、知識のバランスが特に重要視される試験です。

情報ⅠとITパスポートの比較表
項目 情報Ⅰ ITパスポート
対象 高校生 社会人・学生
目的 情報リテラシーの向上 企業でのIT活用
主な内容

情報モラル、プログラミング、

デジタル技術

経営戦略、IT管理、基本技術
試験の特徴 読解力や考察力が重要 幅広い実践的なIT知識
難易度 基礎だが思考力が必要 基礎中心

 さらに具体的な特徴を以下で解説します。

情報ⅠとITパスポートの違い①:試験範囲

情報Ⅰの試験範囲:限定された範囲で深い理解と考察力が求められる難関科目

 情報ⅠはITパスポートに比べて範囲が狭く、一見簡単に思えるかもしれませんが、実際には高度な理解力と考察力が必要とされる試験です。範囲が限定的であるからこそ、深い理解が求められ、特に知識を応用する力や読解力が重要視されます。出題される問題の多くは、ただ単に暗記すれば解けるものではなく、内容を理解したうえで情報を整理し、論理的に思考する力が不可欠です。

 情報Ⅰの試験では、次のように読解力や論理的な思考力を問う問題が数多く含まれています。たとえば「パリティビット」に関する出題では、以下のような形で問題が構成されます。

問題例:

「データの通信において、受信したデータに誤りがないか確認する方法の一つにパリティチェックがある。この方法では、データにパリティビットを追加してデータの誤りを検出する。ここでは、送信データの1の個数を数えて、1の個数が偶数ならパリティビット0を、1の個数が奇数ならパリティビット1を送信データに追加して通信することを考える。」

引用元:令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報Ⅰ』 

 この問題文は、パリティビットの役割を解説した説明文が出され、その内容を理解し、考察を踏まえたうえで正しい選択肢を選ぶ必要がある形式です。たとえば、「受信側でどのように誤りを検出できるか」といった具体的な判断が求められます。また、さらに具体的な判断を求められる選択肢も提示され、たとえば「1つのビットの誤りは判定できるが、どのビットに誤りがあるかはわからない」といった内容を理解して正答を選択する必要があります。

 このように、単に記憶した知識ではなく、内容を深く理解し、応用する力が試される点が情報Ⅰの難しさの一つです。

ITパスポートの試験範囲:広範かつ実践的な知識が求められる

 ITパスポートの試験は、情報Ⅰの内容を包含しながらも、さらに幅広い分野をカバーしています。ITパスポートの試験範囲には、「経営戦略」「ITマネジメント」「テクノロジー」といった、ビジネスの現場で即戦力となる知識が含まれています。

 以下に、ITパスポート試験の実際の出題例を示します。

問題例:

「顧客の特徴に応じたきめ細かい対応を行うことによって、顧客と長期的に良好な関係を築き、顧客満足度の向上や取引関係の継続につなげる仕組みを構築したい。その仕組みの構成要素の一つとして、営業活動で入手した顧客に関する属性情報や顧客との交渉履歴などを蓄積し、社内で共有できるシステムを導入することにした。この目的を達成できるシステムとして、最も適切なものはどれか。」

引用元:ITパスポート試験 過去問題

 この問題では、企業と顧客の関係構築に関するIT活用の知識が求められます。選択肢には「CRM(Customer Relationship Management)」といったシステムが含まれており、顧客管理を通じて企業の利益や顧客満足度を向上させるための考え方が問われます。ITパスポートの問題は、経営の視点や実践的なIT活用を理解していることが前提であり、範囲が広く、またビジネス的な思考が求められる点が特徴です。

情報ⅠとITパスポートの違い②:試験内容

情報Ⅰの試験内容:思考力と応用力を試す多様な問題

 情報Ⅰの試験では、考察力や読解力、思考力を問う問題が多く出題されます。具体的な数値計算や、プログラミングの穴埋め問題も頻出です。以下に情報Ⅰで出題される問題の特徴をまとめます。

1.考察力が求められる長文読解

 情報Ⅰの試験問題には長文の説明が含まれ、設定や背景を読み解く力が必要です。情報の文脈を理解し、適切な選択肢を選ぶためには、単なる知識だけでなく、考察力が求められます。

2.プログラミングの穴埋め問題や数値計算

 プログラミングの基本構造を理解するための穴埋め問題や、数値の計算が含まれており、知識の暗記ではなく、基礎知識の応用力が試されます。

3.パズル的要素や知能テストのような問題

 情報Ⅰの試験には、パズル的な問題も多く含まれ、単に記憶に頼らず、論理的に情報を組み合わせて解く力が必要です。

ITパスポートの試験範囲:広範かつビジネスに直結する実践的な知識が求められる

 一方で、ITパスポートの出題について、改めて詳しく説明していきます。

 ITパスポートは、情報Ⅰの基本的な知識を包含しつつ、ビジネスシーンで活用できる広範なIT知識が求められる試験です。ITパスポート試験の範囲には、単にデジタル技術の理解だけではなく、現代のビジネス現場で即戦力となる「経営戦略」「ITマネジメント」「テクノロジー」などが含まれ、職場や組織の中でITをどう実用的に応用するかのスキルも重視されています。

1.ビジネスの現場で求められる「経営戦略」とITの役割

 ITパスポートでは、単なる技術知識だけでなく、企業の経営戦略に沿ったITの活用法が試されます。これは、企業の競争力を高めるために、ITをどう役立てるかという視点から、ビジネスに不可欠な知識です。たとえば、ITパスポートの試験では、マーケティング戦略や商品開発におけるITツールの利用、コスト削減を目的としたシステム導入の計画など、ビジネスの成長にITをどうやって活用するかを問われます。

 また、経営資源である「人」「物」「金」「情報」をどのように効率よく管理し、競争優位性を確保するかという「経営戦略」に関する知識も必要です。

2.「ITマネジメント」で実務に即したプロジェクト管理スキル

 さらに、ITパスポートの試験には、ITプロジェクトを効率よく管理するための「ITマネジメント」も含まれます。これはプロジェクトの立案から計画、進行状況の管理、リスクの予防策、最終的な評価に至るまで、プロジェクト管理のスキル全般が試される内容です。ビジネスにおいてプロジェクトが円滑に進行するかどうかは、会社の利益や評価にも大きく関わります。そのため、ITパスポートでは、社会人としての実務力やビジネスにおける計画遂行能力が重要視されています。

 たとえば、ITパスポートの試験では、特定の目標を達成するためにどのような管理方法を用いるべきか、適切なリスク管理とは何かといった実践的な知識が出題され、ビジネスに役立つリーダーシップやマネジメントの基礎力が問われます。

3.「テクノロジー」:ビジネス環境でITを実際に運用するための基礎技術

 ITパスポートでは、日常的なビジネス環境において必要とされる技術的知識も重要な試験範囲です。ここでの「テクノロジー」は、単なるインターネットやPCの基本操作を超えた、ネットワークの設計やセキュリティ対策、データベースの運用といった、実際の業務で活用されるITの基礎技術をカバーしています。

 たとえば、ITパスポートでは、社内データの効率的な保存・管理を目的としたデータベース設計や、情報漏えい防止のためのセキュリティ技術の知識が問われます。企業活動において、顧客情報や社内の重要データの安全な管理は非常に重要であり、これを適切に管理・運用できる知識は、あらゆるビジネスシーンで求められます。情報セキュリティに関する理解は、顧客からの信頼を得るための基盤にもなります。

情報Ⅰの試験が難しいとされる理由

 情報Ⅰは範囲が限定され、情報社会における基礎的なリテラシーやモラル、技術的な知識の基礎を学ぶことを目的としています。一方、ITパスポートでは、社会人がビジネス環境でITを活用するための広範な知識が求められるため、情報Ⅰの内容を含みつつも、さらにビジネスに活用できる応用力や管理力が重視されています。

 情報Ⅰは範囲が限られているとはいえ、次のような要素が含まれているため、決して簡単な試験ではありません。

1.読解力を要する長文問題

 情報Ⅰの試験では、長文の説明文を読み取り、その内容を理解したうえで解答する力が求められます。こうした問題では、単なる知識の暗記だけではなく、説明文を論理的に解釈し、自らの考察を踏まえて判断する力が不可欠です。

2.計算問題やプログラミングの穴埋め問題

 情報Ⅰでは、数値計算や、プログラミングの穴埋めといった、基礎知識の応用を問う問題が出題されます。たとえば、ビット数や2進法、16進法の変換を伴う問題や、アルゴリズムの基本を理解していることが求められる問題があり、これらは実際に考えて答えを導き出す力が必要です。

3.パズル的な要素を含む問題

 また、情報Ⅰではパズル的な問題も多く出題されます。データや情報を整理し、異なる要素を組み合わせて解答にたどり着くため、記憶だけでなく柔軟な思考力が重要です。こうした問題は知能テストに近い印象もあり、論理的思考を試されるため難易度が高いと言われています。

まとめ

 情報ⅠとITパスポートは、現代の情報社会で活躍するための知識とリテラシーを高める試験ですが、それぞれの目的や試験内容には大きな違いがあります。情報Ⅰは主に高校生が情報社会のリテラシーやモラル、デジタル技術の基礎を学ぶために設計され、大学受験での必須科目としても位置づけられています。一方、ITパスポートは企業活動で求められる包括的なIT知識を測り、広範な分野にわたる応用的な知識も含んでいるため、実社会での即戦力として役立つ内容です。

 情報Ⅰで学ぶ基礎はITパスポートの知識にもつながっており、情報Ⅰを基礎として、さらにITパスポートの学習にステップアップすることができます。