「地頭のよさ」は先天的な素質が大きい
いわゆる「地頭のよさ」は、端的に言うと「IQ」がイメージしやすいのではないかと思います。そしてこのIQは、小学生だとWISC検査で測るのが最もメジャーなのですが、WISC-5では5つの下位項目に分かれています。
その5つが「言語理解指標(VCI)」「視空間指標(VSI)」「流動性推理指標(FRI)」「ワーキングメモリー指標(WMI)」「処理速度指標(PSI)」です。
それぞれわかりやすく言うと、
- 言語理解指標は語彙力・文章読解力
- 視空間指標は平面図形・立体図形の認識力
- 流動性推理指標は規則性・法則性を理解する力
- ワーキングメモリー指標は短期的な記憶力
- 処理速度指標はその名の通り作業の速さ
を表しています。
これらは後天的に鍛えることもできますが、先天的な素質で決まっている部分が大きいようです。
イメージとしては、運動をすると足が速くなりますが、運動をしていても足が遅い子もいますし、運動をしていなくても足が速い子もいるという感じです。そして、運動を始めたからといって、一朝一夕に足が速くなったりはしないのと同じように、地頭を鍛えるのもすぐには効果が出ません。長期的な取り組みが必要になります。
ワーキングメモリーを「解放」するトレーニング
こうした地頭を育てるトレーニングは現在研究が進んでいて、エビデンスに基づいたトレーニング方法も少しずつ確立されています。今回お伝えするのも、スタンフォード大学の研究で示された、ワーキングメモリーを伸ばすトレーニングです。厳密に言うと、ワーキングメモリーを「伸ばす」のとは少し違うのですが、効果が出やすく、算数の成績アップに直結するトレーニングです。
それが何かというと、私が常々セミナー等でも重要性をお話ししている「計算トレーニング」なんですね。
ワーキングメモリーは、さまざまな情報を短期的に記憶し、保持し、操作する能力です。この能力が高い子は、多段階の指示に従い、複雑な算数の問題を解くことができます。
逆に、この能力が低いと情報を頭にとどめておくことが難しく、文章題の問題文が長くなると途端にできなくなったりします。まさに算数で好成績を取るには欠かせない能力です。
少しややこしい話になるので、読み飛ばしてもらっても構いませんが、ワーキングメモリーは脳の前頭前野と呼ばれる部分の働きです。計算を覚えたての子どもは、この前頭前野を使って、手順を確認しながらたどたどしく計算を処理しています。それに対して、計算に熟達した大人は、前頭前野を使わず後頭頂皮質の部分で計算を処理しています。使っている脳の部分が違うんですね。
※Menon V. Developmental cognitive neuroscience of arithmetic: Implications for learning and education.
ZDM – Mathematical Didactics. 2010 Oct;42(6):515–525. PMCID: PMC3193278 (2025年6月20日閲覧)
ざっくりわかりやすく言うと、計算に習熟することで処理が自動化され、ワーキングメモリーを使わなくても計算ができるようになっているのです。つまり、ワーキングメモリーが「解放」され、その分の処理能力を別のことに使えるようになるというわけです。
「自動化されることで、その処理能力を別のことに使えるようになる」のをイメージするには、車の運転を想像するとよいと思います。
運転を覚えたての時分は、運転に集中しなければいけないので、同乗者の人と楽しくおしゃべりをする余裕なんてないですよね。ワーキングメモリーの処理能力を運転に持っていかれているのです。
運転に慣れてくると、自然と手足が動くようになり、同乗者の人と楽しくおしゃべりをする余裕もできますよね。運転の処理が自動化され、ワーキングメモリーが解放されているのです。
これを算数に置き換えると、不慣れな計算に必死になっていたら問題文を読んでも理解できない、逆に問題文を読んで解き方を考えるのに必死になっていると計算ミスをする、というのも理解できると思います。
大切なのはワーキングメモリーを無駄遣いしないこと
ワーキングメモリーは、限りある資源です。これ自体を鍛えて増やすことは時間もかかりますし、容易なことではありません。
もちろん、ワーキングメモリー自体を鍛えるためのトレーニングもやっていただいてよいとは思うのですが、より現実的かつ効果的な方法は、その限りある資源を無駄遣いしないことです。
ですから2~4年生の低・中学年の段階で徹底的に計算トレーニングをさせて、圧倒的な計算力を身に付けておきましょう。そうすれば、テストのときに問題を解くことに集中できて、よい成績が取れるようになります。
それだけではなく、算数の授業を受けるときにも、先生の話を聞いたり問題の解き方を考えたりすることに集中できます。その結果、同じ授業を受けていても、計算に意識を奪われてしまう子と比べて、理解して吸収できる量が増えますよ。
子どもに「やりたい」と思わせるための工夫を
なお、算数の成績アップのためにとても効果的な計算トレーニングなのですが、1つ大きな欠点があります。それは「つまらない」ことです。あなたは計算問題は好きでしたか? 私は小学生の頃、計算問題が嫌いでした(笑)。
何事においても、本当に効果のある基礎練習というものは、地味で面白くないものですね。ですから、大切さを説いて子どもにやらせようとしても、子どもは嫌がります。
ここで無理強いをすれば勉強嫌いになり、算数が苦手な子が爆誕するという本末転倒な結果になります。私たち大人の側が、子どもに「やりたい」と思わせるための工夫をしなければいけません。
例えばテスティーでは、授業の際に「毎日ドリルをやって来週の授業で先生に見せる!」というような約束(宣言)をしてもらい、翌週の授業で確認して、ちゃんとやれていたら思いっ切り褒めます。仮に全部できていなかったとしても、できた部分を褒めます。褒められると、次こそは頑張ろうと思ってきちんとやってくるようになります。
低学年の子って、信頼関係のあるお兄ちゃん・お姉ちゃん的な存在との約束は、びっくりするほど守ろうと思うものなんですよね。褒められればなおさらです。しかし親だと、その関係性に慣れてしまっているからなのか、なぜかうまくいかないというのを、私も親として身をもって経験しています(苦笑)。
また、ときには「ジャマイカ*」のようなゲームを取り入れることで、ゲーム感覚で楽しみながら計算を練習するように導いています。対戦形式でやるとめちゃくちゃ盛り上がりますよ!
あなたのご家庭でも、何かしらの工夫を凝らして、お子さんに計算トレーニングをさせてあげてくださいね。
*ジャマイカとは:2つの黒いサイコロの目の和を、5つの白いサイコロの目の加減乗除で作るゲーム。

ジャマイカ 出典:amazon