自分勝手な理由で子どもたちは勉強しない!

 新学年がスタートしてから、新しい生活リズムになじめていないご家庭もあるかもしれませんね。新学期では、通塾曜日が変わったり、終わる時間が遅くなったりと、様々な変化があります。

 こうしたタイミングでは、勉強の質・量ともに低下しやすいものです。人間は「言い訳ができる」状況だと、ついつい楽な方に流されてしまうからです。

新学年になって宿題が増えたけど、まだ慣れていないから全部終わらせられなかった
宿題をやろうと思っていたけど、授業の曜日が変わったせいでリズムが崩れた

 本人は「だから仕方ない」とでも言いたそうです。親や先生からするとどうかと思いますが、本当にこういう子が多いです。そして、親がそれを指摘して叱ると、ふてくされたり反抗的な態度を取ったりして家庭内が荒れたりします。果たして、どうすればお子さんがしっかりと勉強と向き合うのでしょうか。

 そこで今回は、叱ったりご褒美で釣ったりせず、無意識下に働きかけて本人が良い選択をできるように後押しする「ナッジ(nudge)」という考え方をご紹介しようと思います。親子関係を険悪にせずお子さんの行動を改善する方法として上手にご活用ください。

良い選択を後押しするナッジとは?

 まずはナッジとは何かを簡単にご説明します。英語で「nudge(ナッジ)」は「肘でそっとつつく」ことを意味しており、人間の行動心理を利用して相手に気づかれないうちに選択を誘導することを指します。

 シカゴ大学のリチャード・セイラー教授が「ナッジ理論」を提唱し、2017年にノーベル経済学賞を受賞したことをきっかけに注目が集まるようになりました。

 行動変容をそっと促す様子は「母ゾウが子ゾウを鼻で優しくつつく様子」に例えられることがあります。この例で子に対する母の愛情がうかがえるように、「ナッジ」は「対象者の利益・健康・幸福を増進するものでなければならない」と定義されています。

 相手を想う気持ちを前提とし、強制することなく良い選択へ誘導するのが「ナッジ」という理論なのです。まさに受験生の親にふさわしいものだと思いませんか?

 ただ、ここまでの説明で「いいね!」と思っても、具体的な事例が思い浮かびませんよね。そこで、いくつか身近な「ナッジ」の例をご紹介します。

お店のトイレによくある「いつもきれいに使ってくれてありがとうございます」

 こうした感謝の言葉は「トイレを汚さないで!」のような強制的な文章よりも受け入れやすく、より効果があることが分かっています。こうした文章の工夫も「ナッジ」の一種です。

「ちゃんと勉強しなさい!」と言うよりも、「いつも頑張っているね! 今日は何をする予定?」という声かけの方が「ナッジ」と言えそうですね。

階段に「ここまで登ると○○カロリー消費!」と書いて健康増進

「ここまで登ると〇〇カロリー消費!」と書かれたステッカーが階段に貼ってあるのを見たことはありますか? それは人々の健康志向を高め、エスカレーターやエレベーターではなく階段を利用させるための「ナッジ」です。

 また、「楽しそう」と思わせる方法はさらに効果的です。Piano stairs(ピアノの階段)という取り組みでは、階段を鍵盤に見立て、足を乗せると実際に音が鳴る仕掛けを施すことで「楽しそう」「登ってみたい」という気持ちを引き出し、階段を登る人を66%増やすことに成功しました。

ポイ捨て防止に! 吸い殻で投票するゴミ箱

 次は、イギリスの「hubbub」という環境保全団体が、煙草のポイ捨てを防止するために行ったユニークなキャンペーンの紹介動画です。

 例えば「サッカーで世界最高のプレイヤーはロナウドかメッシか?」といったアンケートを書き、投票したい方に吸い殻を入れる形にしました。ポイ捨て禁止を呼びかけるのではなく「楽しそう」と思わせる工夫をすることで、自発的にポイ捨てをやめるよう促したのです。この結果、街のポイ捨てが46%減少したそうです。

 やはり大人も子どもも「楽しそう」は強力な原動力になりますね。事例を見たら、「ナッジ」が分かってきたのではないでしょうか。

お子さんが自分で行動する環境を作ってあげることが大切!

 自分から行動をしたくなるような環境を整えることで、他人が強制しなくとも良い行動は引き出すことができます。大事なのは、どうすればその行動を引き出せるかという工夫です。

 人の行動原理は、例えば「健康増進」とか「成績アップ」のようなメリットを示す以外にも、「楽しそう」という好奇心、「みんながやっている」という集団心理など、様々なものがあります。

「家だと集中できないけど、自習室だと集中できる」や「塾でみんなと一緒だと気合が入る」というお子さんも多いですよね。これは集団心理の分かりやすい典型例です。

 そういう子たちにとっては、家で「集中して勉強する」ことを頑張るよりも、「塾に行く」方がはるかに楽ということです。ただ、もちろんそうではない子もいます。他の子がいると気になって遊びたくなってしまう場合もあるので、注意は必要です。

 全員にあてはまる必勝パターンは無いので、「あなたのお子さんはどういう状況だとやる気になるか?」を観察し、考えて、試してみるということが大事です。

大人も子どもも、人は指示をされるのが嫌い

 子どもに勉強をさせようというときには、どうしても「あれやれ」「これやれ」と指示をしたくなってしまいます。しかし、これは厳しい言い方をすれば、私たち大人の「手抜き」です。

 人は大人も子どもも、指示をされるのが嫌いです。「人が嫌がることはしない」は、大切な人間関係におけるルールであり、相手に対しての「優しさ」ですよね。

  • 指示をされなくてもお子さんが進んでやりたくなる状況・環境を整えてあげること。
  • 自習室のような「自分が頑張れる環境とは?」を、お子さん自身も気づけるように仕向けること。

 これらがお子さんへの「優しさ」です。そして、それが結果として親子関係を良好にすることにつながります。ぜひ「ナッジ」な考え方を活用してみてくださいね。