勉強を習慣化するためにすべきこと

 テスト勉強を始めたと思ったら、部屋の片付けや数日の勉強だけで、いつの間にかスマホばかり触ってしまうということはありませんか。三日坊主という言葉があるように、誰でも挫折したり中断したりした経験があると思います。目標を持ち計画を立て「さぁやろう!」と未来の輝いている自分を想像して数日勉強することは、誰にもできます。でも生徒を見ていても、勉強内容よりも気持ちの継続と習慣化が一番難しいのです。

 心理学者ウェンディ・ウッド氏の研究によると、1日の3分の1から2分の1の時間は習慣的な行動が行われているようです。つまり、勉強にとって効率の悪い習慣を減らし、いかに効率的な勉強を習慣化できるかによって受験の成果は大きく変わっていきます。三日坊主で終わってしまうのは、怠け者だからではなく、脳の働きのせいであり、人間はそもそも継続が苦手なのです。

 普段身体の中で最もエネルギーを消耗しているのは脳です。脳は身体の2%ほどの重量しかないのに、エネルギーの約20%を消費すると言われています。できるだけエネルギー消費を抑えるために、慣れていること、習慣になっていることを惰性でやろうとします。そのため、慣れないことに自然と抵抗し、やめてしまうようです。

 でも脳のせいだからといってやらないわけにはいきません。どうすればそんな脳と向き合って勉強脳に変えていけるのかをお伝えします。

勉強が習慣化するまでの期間

 カナダのビクトリア大学では、スポーツジムの継続率を研究対象に、週4回以上取り組むことで6週間以降も継続率が飛躍的に伸びるという結果が出ました。またロンドン大学では幅広い日常的な習慣についての研究を行い、「習慣」が定着するには18〜254日、平均66日の期間が必要であるという研究結果がでました

 大まかにいうと、習慣化には2ヶ月間、週4回以上の継続を目安にすると良いでしょう。しかし研究結果にはばらつきもあったため、勉強の習慣化という点についてもう少し深く見ていきます。

 習慣化コンサルタントの古川武士氏によると、習慣化したいもので期間が異なるといいます*⁴

習慣化

の種類

内容 期間
行動 勉強、片付け、日記など 1ヶ月
身体 ダイエット、早起き、運動など 3ヶ月
思考 ポジティブ思考、論理的思考力など 6ヶ月

参考: 古川武士(2010).『30日で人生を変える「続ける」習慣』.日本実業出版社.

​ これによると、ダイエットや運動など身体に関わることは3ヶ月ほどかかる一方で、毎日勉強をするという習慣は約1ヶ月で定着させることができるようです。さらに習慣化までには反抗期、不安定期、倦怠期ぼ3段階あるようです。本能的に変化を嫌う反抗期を乗り切るために、初めの1週間をいかに乗り越えられるかがポイントになると思います。

 この3つの期間を乗り越え、学習を習慣化するためにはどうすれば良いかお伝えしていきます。

段階 内容 目安期間 挫折割合
反抗期 本能的に抵抗してしまい辞めたくなる時期 初めの1週間 42%
不安定期 体調やイレギュラーに振り回される時期 途中2~3週間 40%
倦怠期 マンネリ化して飽きてくる時期 最後の1週間 18%

参考: 古川武士(2010).『30日で人生を変える「続ける」習慣』.日本実業出版社.

勉強が習慣化するまでの要素とすべきこと

 勉強を習慣化するためには5つの重要な要素があると、私は考えています。

  1. 「志」…なぜ勉強をするか
  2. 「道筋」…達成までの道のり
  3. 「自己効力感」…目標を達成するために必要な能力が自分にあると感じる力
  4. 「ゲーム性」…適切な難易度設定・スピード感・報酬
  5. 「環境」…周りの空気・協力者・手間がかからない勉強との距離

 脳科学者の片岡洋祐氏によると、勉強をスタートする時点で大きな活性化エネルギー(乗り越えなければならない壁)を超える必要があるそうです。そして、一度スタートすると、疲労するまでは勉強を継続することは楽になります(活性化エネルギーを超えて、より低いエネルギーレベルへ到達した状態)。

 例えば、台車に重い荷物が乗っている状況をイメージしてみましょう。最も力が必要なのは一番最初(止まっている状態)から動かすときで、動き始めてしまえば少ない労力で動かすことが可能です。すなわち、行動を起こすためには最初の活性化エネルギー(動かすための力)を超えることが重要なのです。

 活性化エネルギーを超えやすくするためには2つの方法があります。一つは精神力で、「がんばらないといけない!」と考えて、「えいやあ」と高い活性化エネルギー(重いものを動かす)を根性・気合いで超える方法。

 そしてもう一つが、活性化エネルギーの高さを「触媒」を使って下げる(荷物自体を軽くして動かしやすくする)方法です。この触媒役には様々なものがあります。例えば、教科書を開かなくてもすぐに勉強が始められる体制づくりや、他には先生と気が合う、予備校の部屋の居心地が良い(例:観葉植物がかっこよく飾ってある)などです。

 高い活性化エネルギーを根性・気合いで越えるように働きかけるのが「モチベーション」、触媒役が「テクニック」に近いニュアンスです。どちらも重要でそれぞれが両輪で動いていると考えられています。

習慣化の第一歩 活性化エネルギーを超える

 まず一歩を踏み出すために必要なことは、「志」「道筋」「自己効力感」の3つです。先ほど出てきた活性化エネルギーを根性・気合いで超える方法にあたります。

「志」は、なぜ勉強をするか、なぜその大学・学部を目指すのか、という勉強する目的を明確にすることです。どんな目的でも良いですが、そこに強い気持ちがあればあるほど、自分を律し、継続と他の誘惑を断ち切ることができます。

 また、「道筋」はその目標に現状からどのようにして届くのかを俯瞰した長期戦略が見えて、今から何を勉強していけば良いかという短期計画が明確になること。そして、「自己効力感」はそれらを「自分ならできる」「きっと大丈夫だからやってみよう」と前向きな気持ちになることです。

 この3つの要素が合わさり、勉強への第一歩を踏み出すことができます。

 ここでの注意点は、一歩目はできるだけ小さく簡単に達成できる課題を設定することです。そして、この課題達成が今後の勉強において非常に重要なプロセスであることを本人にもよく理解してもらい、「できた」を実感してもらうことが重要になります。

習慣化の継続テクニック 活性化エネルギーのハードルを下げる

 次に踏み出した一歩を継続していくために必要なことは、「ゲーム性」と「環境」の2つです。

継続の2要素 内容
ゲーム性 適切な難易度設定・スピード感・報酬
環境 周りの空気・協力者・手間がかからない勉強との距離

継続の要素 ゲーム性について

 まずはゲーム性です。これが学生には一番イメージしやすいと思います。簡単に言うと勉強をすることが楽しいという感覚になれば良いわけです。

 スマホやテレビゲームを思い出してみてください。ゲームでは目の前の課題や敵をクリアすると、敵も少しずつ強くなります。それを超えると報酬がもらえて、自分も強化されていく、また敵も強くなっていくことを繰り返します。成長がわかり、サクサクと進んでいくような簡単すぎるゲームではすぐ飽きてしまうし、難しすぎると諦めてやめてしまうと思います。

 このような状態を勉強でもスモールステップで達成していくのが理想です。そのために、適切な難易度設定・スピード感・報酬の3点を意識します。

 初めに非常に重要なものが、適切な難易度設定です。勉強を継続する上で、モチベーションに大きく影響を与えるのが難易度です。

 一般的にアスリートが集中力が高くパフォーマンスが向上する状態を「ゾーンに入る」と言います。心理学的には、時間を忘れて、他のことが気にならないくらい没頭している集中状態のことをフローと言います。

 コロンビア大学の研究では難易度設定が「難しいけどできそうな状態」で勉強をしているときが最も集中を持続でき、難易度が上がりすぎると集中力は下がっていき、逆に問題が簡単すぎても集中力は大きく下がることがわかっています*⁵

 つまり、高いモチベーションと集中力があるフローに入るためには、難しいけどできそうという難易度設定が大事です。これを勉強で考えると理想の教材は「25~50%は現状でも正解できる」かつ「解説を読んだら90%以上は理解できる」ものです。

初見得点率 デメリット メリット
50%以上 ・簡単に感じる
・成長が少ない
・自信につながる
・復習と定着が目的であれば良い
50~25% ・フローに入りやすい適切な難易度
25%未満 ・インプットに時間がかかる
・理解できないため諦めやすい

・インプットを先生に個別に教えてもらえる環境であれば

 最も力がつく可能性がある

 残りの要素であるスピード感と報酬に関しては、目標を大きくしないことが重要です。

 勉強は、例えば英語であれば「単語」「文法」「構文解釈」「読解」など要素が複数あり、簡単には模試の結果に現れないものがあります。そのため、特に勉強が習慣化されるまでは、模試の結果を求めるのではなく、英語であれば翌日に英単語テストを実施する、歴史であれば一問一答テストを実施するなど、ハードルを下げて結果を見えるようにしていきましょう。

 勉強の悩みは成績を上げることでしか解決できないことが多いため、点数を取れたという結果が報酬になることが多いです。また、点数だけを求めるのではなく、勉強を習慣化するために朝8時に勉強を開始できたら好きなアプリを1日で30分使える、1週間勉強を継続できたら好きなドラマを1本見る、などの報酬を設定するのも継続するためのコツです。

 どうしても模試の結果にこだわりたいのであれば、スピード感を出すために科目を絞って短期集中で点数を上げにいくことをおすすめします。

継続の要素 環境について

 次に、勉強を習慣化するための要素である環境については、周りの空気・協力者・手間がかからない勉強との距離の3つを意識します。

周りの空気

 アメリカの起業家ジム・ローン氏は「あなたの周りの5人の平均があなたである」という有名な言葉を残しています。人は無意識のうちに、言葉遣い、趣味、思考など、様々な面で周りの人の影響を受けます。中には自分の意志が強く、影響を受けにくい人もいるでしょう。そのため、どこまで影響されているかは人それぞれですが、無意識のうちに何かしらの影響を受けていることは間違いないでしょう。

 人間には周りの和を乱さず自分が行動を合わせてしまう「同調」という性質があります。大学に進学する生徒が少ないクラスや、勉強をしない生徒が多いクラスの中で、勉強を開始する第一歩を踏み出すのは相当な勇気が必要になります。

 しかし、周りに難関大学に行く生徒が多く、1年生から勉強するのが当然と考えているようなクラスであれば、その第一歩は踏み出しやすいでしょう。

 周りの人から離れて一人異質になるのは、大変なことです。また、同様に自分が勉強する第一歩を踏み出しても、友人からゲームやドラマの話を毎回されたり、SNSで連絡が頻繁に来たりするとその誘惑に負けそうになるものです。逆に周りが勉強していて、目標や困難を共有していると自分も頑張ろうと思いやすいものです。

 そのため、自分が頑張ろうと決心したら、自分と一緒に頑張ろうと周りを巻き込むのが良いでしょう。または、自分から自分の達成したい環境に飛び込むことも良い一手です。予備校に通ったり、勉強するのが当たり前の友人と話したりするのがオススメです。

協力者

 勉強の難しいところはすぐに成果が可視化されないことです。特に初めはつらいもので、すぐに目に見える成果が得られないとどうしても継続しづらくなります。

 これはダイエットと似ている部分があると思います。ダイエットも継続がなかなかできずにトレーナーが必要とされていますよね。これは一人では習慣化するまでに可視化されず諦めてしまう人が多いからだと思われます。

 勉強も同様です。まず成果の可視化、つまり前述のような報酬が重要です。

 その次に協力者の存在です。志の継続は非常に難しいものです。そのために、家族や一緒に勉強を頑張る友人、予備校の先生など協力者がいると良いでしょう。協力者に自分の目標を伝えたり、サボりそうになったり心が折れそうになったりしたときに伴走してもらえるような人がいると継続することができます。

手間がかからない勉強との距離

 人間は手数が増えるほどやらなくなる傾向にあります。勉強を習慣化するためには、脳が面倒だと考えず、さらに身体もなるべく使わないでスタートできる環境を作ってあげる必要があります。

 例えば、机が整理整頓されていることは、勉強をスタートするのに小さなエネルギーで可能になります。壁に覚えるべき内容を貼ったりすることで、教科書を開く必要性を減らせば、さらに勉強をスタートしやすくなります。このように勉強を始めるまでの手間を減らして、活性化エネルギーのハードルを下げることを意識していくことで勉強を継続することができます。

 そのための一つの方法として、アクショントリガー(行動するきっかけ)を設定して習慣を連続させるのが良いと言われています。「トイレに行ったら手を洗う」「ご飯を食べたら歯磨きをする」などはこのアクショントリガーで習慣的に行動しているものです。

 例えば「電車に乗ったら英単語帳を開く」「お風呂を出たら1時間、今日勉強した内容を復習する」など、普段の行動と勉強を紐づけてあげると、勉強を始めるまでの面倒だなというマイナスの感情を取り除くことができます。このように勉強を始める場面の前段階に普段の行動と結びつけて、なるべく低い目標や時間の設定をしてあげると継続しやすくなります。

 特に初めは勉強に抵抗感があるので、時間や場所を決めて「寝る前に明日の勉強道具をバッグに入れる」「朝8時には自習室に行く」「自習室についたらスマホはマナーモードにしてバッグに入れる」などとアクショントリガーを設定しておくことがおすすめです。アクショントリガーと、目的のアクションとの間には必然性が大切で、眠くても、やる気が起きないときでも、どんな状況でもアクショントリガーからアクションへ簡単に移行する、できれば無意識に近く移行できる関係が理想的です。

 例えば夜、洗顔して乳液を顔につけるとします。洗顔がアクショントリガーで乳液がアクションとなりますが、その場合、洗顔料が入った容器と乳液の入った容器はとなりに並んでいることが大事で、目を閉じていても容器をとれるように設定しておくことが肝心です。

 それを勉強に置き換えると、例えば定期券の入っている同じところに英単語帳が入っているとか、お風呂の脱衣所に濡れた手でページをめくる必要のない歴史年表が置かれているなどで優れたアクショントリガーを設定できます。つまり、やれない理由や条件をつぶしておくことが大切になります。

 人間の手数が増えるほどやらなくなるという性質を活かして、逆にすぐにやってしまう「スマホを触る」までの手数を増やすこと、例えば勉強中は玄関のカギのかかった箱の中に置くとか、ロックナンバーを複雑なものにするなどがおすすめです。

 もちろん初めはアクショントリガーになったらそのルールに基づいて勉強するという意思が必要です。これを習慣化するまで続けていくことが継続のポイントです。

 また、悪習慣を無くすことも重要です。自分にとってプラスがなく、惰性で継続してしまっているSNSや娯楽は無くしていく必要があります。普段の習慣を書き出し、その時間を認識し、それを無くすことでどれくらいの時間が捻出されるか可視化してみましょう。

 習慣化の際に親として重要なことは、結果ではなく、行動を評価することです。勉強は習慣化するまでにすぐに結果が出るものではありません。褒めるポイントを数値ではなく行動にし、親が伴走してくれていると子どもが感じることは習慣化の助けになります。習慣化を目指している初めの1ヶ月は特に結果を見ずに、行動に焦点を当てましょう。

 後編では、高い集中力で勉強を継続する方法を紹介しますので、ぜひ確認してみてくださいね。

公式LINE

*¹ ウェンディ・ウッド(2022).『やり抜く自分に変わる 超習慣力 悪習を断ち切り、良い習慣を身につける科学的メソッド』.ダイヤモンド社.
*² Navin Kaushal & Ryan E Rhodes(2015).J Behav Med,38(4),652-63. doi: 10.1007.
*³ スティーヴン・ガイズ(2017).『小さな習慣』.ダイヤモンド社.
*⁴ 古川武士(2010).『30日で人生を変える「続ける」習慣』.日本実業出版社.

*⁵ Judy Xu & Janet Metcalfe (2016).Memory & Cognition,44,681–695.