最強の勉強空間とは

 勉強する環境を固定するか変えるかは、一長一短のようです。ただ、受験勉強の場合、長時間勉強することになるので、勉強する場所に関しては、記憶力が上がるかよりも、勉強以外に気を取られない「勉強に集中しやすい環境」で継続することの方が重要です。

 私は予備校を運営していることもあり、塾や予備校の自習室や受験生用の有料自習室が最強だと考えています。理由は2点、「勉強しかできない環境」と「ライバルの存在」です。自習室では勉強しかできない環境であり、かつライバルたちの勉強している姿を見ることで、強制的に勉強時間が確保できます。

 中には周りに人がいて、視界や小さな雑音が気になって集中できない人もいるでしょう。しかし、その集中力の少しの低下と、一人でスマホやSNSとの自制の戦いで勝ち続けないといけない環境を比べると、自習室での勉強の方が良いと考えています。

 人の目があることで適度な緊張感を感じられる環境であれば、勉強に集中する良い環境が形成されます。適度な集中状態により、ときにゾーン体験にもつながっていきます。

 すでに一人でも勉強する習慣ができていて、自制心の強い人はリラックスして集中でき、そこまで移動時間がかからない場所で勉強するのが最も良いです。

 もちろん自習室に通うのには費用も必要ですし、距離が遠い人もいると思います。その場合は図書館や家で勉強すると思いますが、私は勉強が習慣化されるまでは一人にならず「勉強しかできない環境」に身を置くことが重要だと考えています。

 もし習慣化できる前に家で勉強する場合はスマホの「タイムラプス」で記録して、見られているような環境を作ったり、スマホを玄関に置いて手元から離しておくなどの手間をかけたりしておくと勉強時間が確保できるでしょう。勉強が習慣化できたら、集中力を上げるために、時間によって外に出て単語を暗記したり、家で問題を解いたりして場所を変えていくのも良いでしょう。

 習慣化できるまでは勉強時間を確保できる環境に身を置くことを目標にし、それを達成できるようになってから集中して勉強できるように意識していくと、生徒は勉強に向かえるようになってきます。「勉強時間」を確保できるようにしてから「勉強効率」を上げるという順番を意識しましょう。

 辻村壮平准教授(茨城大学)らによる、騒音が学習効率に及ぼす影響についての実験では、一定の時間内に集中することが求められる場合「騒音なし>空調音>会話音」の順に成績が高くなっていました。*¹

 受験勉強は科目によって勉強内容も異なり、さらに、理解したり、単に記憶したり、まとめたりとタスクが異なり、また長時間に及びます。そのため、勉強内容と脳の状態によって適した音環境も異なりますが、集中して問題を解くときには「騒音なし」や「空調音」くらいの環境が良いでしょう。

 また、電車内や待ち時間など強制的に時間が決まってしまう環境では、暗記や脳内復習で「5分で10単語暗記する」「さっきの授業を思い出す」のように、逆に時間制限をつけて効果の高い学習に変えてしまいましょう。

集中力を高く継続する15分勉強法

 人間の脳の活動状態は常にゆらいでいて、変化しています。そのため、根性だけで高い集中力を継続させようとするのは困難です。特に高校生や受験生は、日常の中の様々な場面で勉強することになります。

 そのため、4種類の時間による集中パターンを持っておくと良いでしょう。

場面 環境 時間 内容
スキマ時間 雑音多・机なし 5分 復習
電車・バス 雑音多・机なし 15分 暗記
授業・自習 雑音少・机椅子あり

50分

(15分×3回+5分復習)

理解・暗記・演習・復習
過去問演習 雑音微・机椅子あり・緊張感

90分

(45分×2回)

試験問題を解く

 まず電車・バスの待ち時間やスキマ時間には、5分でできる復習材料を用意しましょう。スキマ時間ではこれを復習すると決めて持ち歩くのをおすすめします。毎回同じものでも良いですし、例えば朝であれば、前日の勉強の参考書高速復習、単語の間違えリストの復習、夕方や夜であれば今日やった授業の脳内復習などと、内容は変わってもルーティンとして決めておくのも良いでしょう。

 スキマ時間以外の集中パターンは15分を中心に構成していきましょう。池谷裕二教授(東京大学)の研究では、「60分の学習」よりも「15分×3回(計45分)の学習」の方が学習効率が高いという結果があります。

 電車やバスなど勉強に取り組める時間が決まっているものは、少し焦る状態をわざと作り出すことで集中力を上げることができます。日常生活の中で終了時間が強制されている環境をうまく利用することで、学習効果を上げることができるでしょう。

 高校生の日常生活では、学校の授業や多くの時間の区切りは50分から60分に設定されていることが多いと思います。そのため、50分の集中パターンを最も多く使うことになります。また、問題演習では数学の問題や英語の読解問題で15分以上かかってしまうことも多い点、休憩からの切り替えが難しい点からも50分を意識していきます。

45分勉強(区切れるものは15分×3回)

5分脳内復習


休憩5~10分

という時間を1クールとして運用していくことをおすすめします。

 小問が多い問題集や暗記の場合は15分×3回は1回目で理解、2回目で暗記、3回目でテストなどと役割を変えても良いです。5分脳内復習は、45分で勉強した内容を思い出したり整理したりする時間を作り、自分の言葉で説明やアウトプットができる練習をしましょう。

 また、休憩中にスマホゲームをしたり動画を見たりするのは脳を休めることにならず、疲労が溜まってしまいます。そのため、休憩中は外でボーっとしたり、景色を見て身体を休めたりするようにしましょう。

 実際の入試では1科目の時間が80分や90分が多く、稀に60分や120分など短いものや長いものがあります。でも人間の集中力は90分も続きません。実際の試験や過去問を解くときは45分×2回のつもりで、一度目を閉じて深呼吸する時間を取ると、焦りや思考の切り替えがしやすくなります。

 本番では人生のかかった勝負になるため、「この問題で間違えたらまずい」「これは解けるはずだ」など様々な邪念が浮かび、通常よりも時間がかかります。思考をクリアにするためにも、間に一度リセットする時間を取ることをおすすめします。

高い集中力で勉強をするためにすべきこと

 高い集中力で勉強をするためには、「勉強に制限時間をつける」「覚醒レベルの高い状態で勉強する」「雑念を減らす」の3つに注意しましょう。

勉強に制限時間をつける

 作業や学習の効率は開始直後に高まり、中盤は低く、終了直前に再び高くなることが知られています。この開始直後と終了直前の集中力アップ時間帯はほぼすべての人に当てはまる再現性の良い現象です。勉強に制限時間をつけることで、この開始と終了の集中状態を増やしていきます。

 ただ、終了のタイミングを自分でコントロールできる場合、こうした効果が薄れます。したがって、強制的に終了時間が決められているスキマ時間や電車・バスの時間でも勉強をすることで効率が高まります。集中に適した15分を意識することで、開始直後と終了直前の集中力アップの頻度を増やしていきましょう。

覚醒レベルの高い状態で勉強する

 集中力の高い時間帯は「起きてからの2〜3時間」と言われています。起床後は、脳がフレッシュな状態で、疲労が溜まっていないので、集中できる状態になっています。

 そのため、集中力を必要とする勉強に向いています。例えば、深く考える必要のある数学や物理の問題演習、英語や現代文の読解問題、過去問演習などです。

 現役生であれば、学校に着いたあたりか1時間目にあたると思いますが、この時間を有効活用するためには起きる時間を1時間早めて、学校に行く前に勉強したり、早く学校に着いて図書館で勉強したりするなど工夫すると効果的です。

 逆に夜の脳は疲労が溜まっているため、集中力を必要とする勉強には向いていません。睡眠により情報が整理されるため、暗記系のインプットに向いているとされています。

 しかし、実は入浴後は覚醒度が上がっています。そのため、入浴後の1時間を勉強にあてるのが良いでしょう。入浴後にすぐ寝ようとしたり、スマホで遊んだりするのはもったいないです。入浴後に1時間勉強し、少しリラックスして、頭を休めて就寝するというリズムを心がけましょう。

 反対に覚醒度や集中力が下がるタイミングは、昼食後に勉強を開始して20分程度経過した後などの、眠気が誘発されやすい時間帯です。こうした時間帯は、身体を動かしていると眠くなりにくいため、要点を図にまとめたりと、手を動かす作業に向いています。また、この時間に10分ほど昼寝をするのも良いでしょう。

雑念を減らす

 集中力が落ちる原因には、眠気、脳の疲労、他から入る雑念などがあります。

 眠気を解消するには、立って歩くなど、身体を動かすのが一番です。安全なところを歩きながら暗記するのも効果があります。他に顔を洗う、歯を磨く、シャワーを浴びる、炭酸飲料を飲む、お気に入りの音楽を聴くなど、気分転換と脳への刺激を通して覚醒度を上げることができます。

 脳の疲れを解消するためには睡眠が最も重要です。また、ボーっとする時間も大切で、電車から窓の外をボーっと見ている、景色をボーっと見ているなど、頭の中に情報を入れた直後、ボーっとすることで、ごちゃごちゃした思考を無意識にまとめてくれたりしているものと思われます。

 一方、他から入る雑念について、昨今では友達からの連絡やSNSなどを受け取ったり、返信したりすることなどが原因となることが多いですので、スマホは勉強中はその部屋へ持ち込まないなどの工夫が必要です。

まとめ

 受験勉強の始め方と継続の仕方についてお伝えしてきました。受験をやった方が良いもの、やらないといけないものと位置づけているのであれば、どうせやるなら、最大の効果を苦しまずに楽しんで出せるように様々な情報を入手し、自分が継続できる方法を模索してもらいたいです。

また、特に初めのうちは、結局三日坊主になってしまったということもあると思いますが、目標の100点は達成できなくても、そのときの自分に出せる100%を発揮するように心がけましょう。もしできていなくても、三日坊主になってしまったとしても、それをどのように改善していくかを考えて、試行錯誤して受験に向かっていってもらえたらと思います。

*¹ 辻村壮平・上野佳奈子(2010).「教室内音環境が学習効率に及ぼす影響」『日本建築学会系論文集』第75巻 第653号.日本建築学会.
*² 株式会社ベネッセホールディングス."学習時間を細かく分けた「45分」で「60分」と同等以上の学習効果を発揮 “長時間学習”よりも短時間集中の“積み上げ型学習”が有効であった".PR TIMES.2017年3月8日.https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000562.000000120.html(2023年10月24日閲覧)