新課程共通テスト「社会」の概要
2025年新課程共通テスト「社会」について、出題形式や試験時間(1科目60分、2科目の場合130分で間に10分挟む)は現行と変更はありませんが、出題科目の名称や配点に大きな変化が出ました。変更点や注意点を簡単にまとめると、下記のようになります。
①新設科目の「歴史総合」と「公共」について
②社会(地理歴史・公民)の科目の再編について
③共通テストにおける2科目選択時の注意点
④問題構成(配点)についての変更
①新設科目の「歴史総合」と「公共」について
歴史分野では「歴史総合」が新設され、公民では「公共」が新設されました。また、地理分野では「地理総合」が新設されましたが、従来の「地理A」と内容に大きな変更はありません。
「歴史総合」と「公共」は新しい内容となっていますので簡単に説明します。
「歴史総合」は、従来の「日本史A」「世界史A」(近現代史を中心とする内容)を統合させたような科目で、近現代の歴史の中で近代化・大衆化・グローバル化を契機に、世界のさまざまな地域における出来事と、日本の出来事がどのように関連しているのかを理解する内容となっています。
「公共」は、倫理・政治・法・経済などに関する基本的な概念や理論を理解し、人間と社会の在り方について考察することで、現代の諸課題解決を目指す内容となっています。例えば、金融教育、社会保障制度、職業選択についての他、地球環境や資源・エネルギー問題など、現代的なテーマが幅広く含まれています。
こちらの2科目は「地理総合」も含めて必履修科目となっており、共通テストの出題範囲にも含まれていますので、高校1・2年生の学習も気を抜かずにしっかり進めていきましょう。
②社会(地理歴史・公民)の科目の再編について
現行の10科目から新課程では6科目へ大きく改編されます。
・地理歴史の出題科目は「地理総合、地理探究」「歴史総合、日本史探究」「歴史総合、世界史探究」の3科目。
・公民の出題科目は「公共、倫理」「公共、政治・経済」の2科目。
・地理歴史と公民を組み合わせた科目として「地理総合、歴史総合、公共(いずれか2分野を選択し解答)」の1科目。
共通テストの出題科目は、いずれも必履修科目「歴史総合」「地理総合」「公共」と選択科目を組み合わせた形となりました。
③共通テストにおける2科目選択時の注意点
共通テストで社会を2科目選択する場合は、科目によっては選択できない組み合わせがありますので注意が必要です。
■選択できない組み合わせ(全11組)
・④「公共、倫理」と⑤「公共、政治・経済」の組み合わせ
・⑥「地理総合、歴史総合、公共」のうちの「地理総合、歴史総合」と、①「地理総合、地理探究」、②「歴史総合、日本史探究」、③「歴史総合、世界史探究」の組み合わせ
・⑥「地理総合、歴史総合、公共」のうちの「地理総合、公共」と、①「地理総合、地理探究」、④「公共、倫理」、⑤「公共、政治・経済」の組み合わせ
・⑥「地理総合、歴史総合、公共」のうちの「歴史総合、公共」と、②「歴史総合、日本史探究」、③「歴史総合、世界史探究」、④「公共、倫理」、⑤「公共、政治・経済」の組み合わせ
つまり、「地理総合」「歴史総合」「公共」という名称がつく科目は、重複して受験をすることができないということです。
また、地歴公民の「地理総合、歴史総合、公共」は、旧帝大などの難関大では選択科目として認めていないことがあります。学習計画にも影響しますので、自分が受験する可能性がある大学の募集要項を早めに確認した上で、選択科目を選びましょう。
④問題構成(配点)についての変更
問題構成(配点)は下の図の通りです。
・①「地理総合、地理探究」②「歴史総合、日本史探究」③「歴史総合、世界史探究」については、総合科目が25点、探究科目が75点。
・④「公共、倫理」⑤「公共、政治・経済」については公共が25点、倫理、政治・経済が75点。
・⑥「地理総合、歴史総合、公共」については、2分野を選択して各科目50点。
ちなみにですが、②「歴史総合、日本史探究」と③「歴史総合、世界史探究」は、試作問題の段階では、それぞれの歴史総合部分は内容が異なっていました。具体的には②「歴史総合、日本史探究」の歴史総合は日本史の内容に偏っており、③「歴史総合、世界史探究」の歴史総合はやや世界史の内容に偏っています。
一方、④「公共、倫理」と⑤「公共、政治・経済」のそれぞれの公共部分(大問2つ)は歴史総合と異なり、同一の問題でした。
2025年新課程共通テスト「社会」の試作問題
それではここから「歴史総合」「公共」の内容について、現在公表されている試作(サンプル)問題の一部を見ていきましょう。
問題作成方針として、「社会」については従来の作成方針を重視しつつ、新学習指導要領に「それぞれの科目で育成すること」と示されている資質・能力を、一層重視したものとなるように検討されています。
その中で、すべての科目に共通している点は、
・「多面的・多角的に考察する」
・「多様な文書・データ・資料を用いて考察する問題を含める」
となっています。
「考察する力」を問うように作成された問題へと対応するためには、下記の3つの力が必要です。
①前提となる知識
②主題に基づき、知識を組み合わせて判断する力
③資料を素早く読み解く力
実際の問題では、これら3つの力を組み合わせて使います。どれか1つを身につけていれば解ける問題もあれば、前提となる知識も、それらを組み合わせる力も必要で……なんてこともあります。これから紹介する各問題の解説を読みながら、どの力を使えば効率よく問題に対応できるのか意識してみてください。
また試作問題においては、どの科目もページ数が増えています。例えば、試作問題「歴史総合、世界史探究」は40ページもあり、2023年度共通試験世界史の23ページに比べると大幅な増量です。しかし、設問数に大きな変更はありません。それだけ問題文や資料が増えたということです。どんな資料が増えたか細かく知りたい人は、今回取り上げる問題以外もぜひ見てみてくださいね。
「歴史総合」試作問題
まず歴史総合の試作問題を見ていきます。
第1問 「東西冷戦とはどのような対立だったのか」についての「歴史総合」の授業
第2問 「世界の諸地域における近代化の過程」についての「歴史総合」の授業
「歴史総合」試作問題 第1問
大問1は5問で構成されていて、「東西冷戦」をテーマにした問題です。問1と問2を見ていきます。
問1は、資料1の写真の解説に当てはまるものを入れる問題と、その時代の情勢の組み合わせの問題です。東西冷戦とは、「資本主義体制と社会主義体制の対立」とも言い換えることができますので、先生の「亡命を受け入れた側にこそ政治や思想・表現の自由がある」との発言からも、資本主義体制である西側が「亡命を受け入れた側」であると推察することができます。
よって正解は、「い」が答えとなります。また、ソ連は社会主義体制の代表国で、資本主義体制のイギリスやフランスと同じ色にはならないので「I」が答えになります。
写真を読み解く力と東西冷戦の対立構図を、地理的に理解できているかどうかを問う問題ですね。
問2は、「自由」についての4つの資料を読んで、「自由」の意味の解釈として誤っているものを選べという問題です。それぞれの資料を見ていくと、資料4は「奴隷の子孫」という言葉から、人種差別の内容ではないかと類推できます。こちらの資料はキング牧師の演説ですね。
資料5は「元始、女性は太陽であった」という言葉から、女性差別の内容ではないかと類推できます。こちらの資料は平塚らいてうの「青踏」ですね。
資料6は「フランス人民」という言葉と時期から、フランス人権宣言の内容ですね。絶対王政から独立するという意味で「自由」が使用されています。
資料7は少し難しいかもしれませんが、「インド」と「行動か死」という言葉から、ガンジーの演説だとわかります。イギリスからの植民地支配からの独立だと類推できます。
以上より一つひとつの選択肢を見ていくと、「①」が誤っていることがわかります。それぞれの資料で使用されている「自由」の意味を、歴史的背景に即して解釈する力を問う問題です。
「自由」の意味の解釈と言われると難しく感じるかもしれませんが、実際には資料とその背景にある歴史的事実が結びついていれば、回答できる問題となっています。ただし、複数の資料を読むことに慣れている必要はありそうですね。
これまでのセンター試験、共通試験ではなかったような、複数の資料を読みながら解釈する必要がある問題ですね。やはり歴史的知識は前提としつつも資料問題や考察問題の多さが目立つ印象なので、歴史的な背景の理解を重視しながら、今まで以上に地図や資料集を活用した学習が必要になると思います。
「歴史総合」試作問題 第2問 A
次の第2問Aは全3問で構成されていて、オスマン帝国、大日本帝国、清王朝の憲法について比較検討する問題です。「憲法」をテーマに、世界のさまざまな地域における出来事と日本の出来事がどのように関連しているのかを問う、まさに歴史総合の特徴を押さえた出題形式となっています。
問3を見ていきましょう。清の欽定憲法大綱とオスマン帝国や大日本帝国を比較して、共通点や相違点をまとめた内容となっており、清の欽定憲法大綱の特徴や、作られた経緯について考察していく問題です。
それぞれの選択肢を見ていきます。
- ①に関して、「文化大革命」は1960年代なので、年代のズレがあります。
- ②に関して、「太平天国の乱」は1851年の出来事なので、こちらも年代のズレがあります。
- ③に関して、「大日本帝国憲法の発布」は1889年なので、こちらも年代のズレがあります。
- ④に関して、「日露戦争」は1904年の出来事なので、時期的にも近いと判断できます。
よって正解は「④」となります。
問3については世界と日本でのそれぞれの出来事について、その年代や時期を把握しておくことで容易に選択肢を絞っていくことができますので、各出来事の年代や時期についても意識しながら勉強に取り組むことをおすすめします。
「歴史総合」の試作問題まとめ
全体的にすべての問題において資料やグラフが複数使用されており、単に歴史的用語を問う設問は少なく、より思考力や判断力を問う内容になっています。歴史総合は、目の前の資料に関する知識を、時代や地域を横断して活用できるかを問う問題が特徴となっています。
ただ、そもそもの前提知識が必要な問題も多いので、探究科目と併せて知識を深めながら演習に取り組むとよいと思います。
対策としては、歴史の縦軸・横軸両方の理解を大切にしつつ、資料・地図・グラフなどの資料集を活用しながら学習を進めましょう。また、複数の資料から素早く情報を見つけ出し、読解する力も重要になってきますので、共通テストの試作問題はもちろん、共通テスト日本史A・世界史Aの過去問や問題集にたくさん触れて演習をすることが効果的です。
また、日本史・世界史の前提知識を養うという点では、センター試験の過去問演習も効果的です。
「公共」試作問題
次に「公共」の試作問題を見ていきましょう。ここでは第3問を取り上げて、解説していきます。
第1問 「食品ロス」問題への生徒の考察
第2問 生徒による「模擬国会」
第3問 「SDGs」に関連した生徒の探究学習
第3問は、生徒の「SDGs」に関連した探究学習をテーマにした問題です。まさに旬な話題の「SDGs」がテーマとなっていますね。第3問のⅢでは、生徒たちが「SDGs」の目標4「質の高い教育をみんなに」を課題に選び、経済的不平等と教育に及ぼす影響について考察していく場面設定になっています。
「公共」試作問題 第3問 問3
問3は、生徒たちがOECD諸国の諸資料(資料1〜資料5)の分析について議論している場面設定となっています。生徒Bと生徒Cの発言として適切な選択肢を選ぶ問題です。
aの問題は、生徒Bの「子どもがいる世帯における所得格差を見ると」の発言から、資料3「子どもがいる世帯における相対的所得ギャップ(2014年)」を使用することがわかります。選択肢から日本と最も近い数値の国を選べばよいので、aに入るのは「ウ」のアメリカになります。
bの問題は、日本とアメリカがOECD諸国の平均より大きい資料を探す問題です。選択肢を見ると、資料2「児童・生徒、学生一人当たりの年間教育支出(2017年)」と資料4「公財政教育支出対GDP比(2017年)」を使用することがわかります。
まず「公財政教育支出」についてはOECD諸国の平均より下回っているので、選択肢「カ」は当てはまりません。
資料2は、さらに「公財政教育支出」と「家計からの教育支出」に分けられています。今回は、家庭の経済的格差が子どもの教育に及ぼす影響を示す指標を見たいので、「家計からの教育支出」に着目すると、bに入るのは「オ」になります。
会話文と選択肢をヒントに資料を適切かつ素早く読み取って、複数の資料を検討しながら回答していく必要がありますね。グラフの数がとても多いので、それに圧倒されて怯んでしまう受験生がいるかもしれませんが、会話文を紐解きながら、その後にグラフの分析に移るのがよいと思います。
ある程度の練習や演習も必要になるかと思いますが、こちらの問題については会話文や資料をしっかり読解さえできれば、前提知識がなくとも正解できる問題となっています。新課程になって、知識がないと解けない問題に加え、前提知識がなくとも正しく会話文や資料を読解すれば解ける問題も多く含まれているので、しっかり演習を積んで確実に得点していきましょう。
「公共」試作問題 第3問 問4
問4は、生徒たちがOECD諸国の諸資料(資料1〜資料5)の分析を踏まえて、「SDGs」の目標4を達成するために必要な政策について議論している場面設定となっています。生徒Bの発言として適切な選択肢を選ぶ問題です。
cの問題は、「SDGs」の目標4を達成するために、日本が取るべき政策を構想する問題となっています。資料1〜資料5や生徒たちの議論では、経済的不平等などが教育に影響を及ぼし得るとの内容となっているので、日本は教育において、より経済支援をする必要があるという主旨の選択肢を類推することができます。
よって、そのような主旨の選択肢となっている「イ」が答えになります。
dの問題は、生徒Bの発言「社会全体で、すべての子どもが十分な社会的経済的文化的な環境で学べるようにすることが大切だね」の具体的な教育政策を選ぶ問題です。
生徒Bの発言の前に生徒Dが「経済的状況だけではなく、親の学歴や価値観、家庭の文化的な環境も子どもの学習の関心や意欲、態度に影響を及ぼす」との発言から、親の学歴や価値観、家庭の文化的な環境についての内容の選択肢を類推することができます。
よって、そのような主旨の選択肢となっている「カ」が答えになります。
問4は問3で分析して見いだした課題の解決に向けて、複数の資料や生徒の発言を基に多面的・多角的に考察し、構想する設問となっています。
「公共」の試作問題まとめ
歴史総合と同様に単に知識だけを問う設問は少なくなり、すべての問題において資料やグラフが複数使用されており、より思考力や判断力を問う内容になっています。
難易度に関しては、従来の「現代社会」と大きく変わりませんが、1つの設問に解答するために読む必要がある資料やグラフの量は、従来の共通テストよりも多くなると予想されるので、大量の資料やグラフを素早く読み取る情報処理能力がより求められるでしょう。
対策としては、資料を読み解く上での公共の前提知識を養いながらも、日頃から現代の諸課題に対して主体的に興味を持って学習を進めましょう。問題を速く正確に解くためには、学習した細かい知識が、資料や実際の社会の出来事とどのように結びついているかを紐解く視点を持っている必要があります。このような力は一朝一夕では身につきにくいので、日常的にニュースや新聞を見るなどして社会にアンテナを張っていきましょう。
また、大量の資料やグラフを素早く読み取る練習が不可欠なので、共通テストの試作問題はもちろん、共通テスト「現代社会」の過去問や問題集にたくさん触れて演習をすることが効果的です。公共の前提知識を養うという点では、センター試験の過去問演習も効果的です。
国公立大学二次試験や私立大学での総合科目の扱い
国公立大学の二次試験では、地理歴史や公民においては探究科目の分野のみからの出題が多いのですが、総合科目も範囲に含まれることがあるので注意が必要です。例えば、東京大学や京都大学では探究科目のみの出題となっていますが、北海道大学、千葉大学、大阪大学は総合科目も出題範囲となっています。
私立大学についても、地理歴史・公民の出題範囲は大学や学部によってさまざまです。例えば、早稲田大学は世界史・日本史が探究科目のみとなっていますが、上智大学は総合科目も含まれます。
また、同じ大学でも学部によって出題範囲が異なる場合もあります。例えば、慶應大学は経済学部・法学部で総合科目も含まれますが、商学部では探究科目のみの出題となっています。総合科目についても「世界史関連のみ」や「〜年以降を中心に」のような注意書きもあるので、細かく確認していく必要がありそうですね。
出題範囲に総合科目が含まれる場合と探究科目のみの場合で、どのように出題内容に違いが生じるかは、実際の試験問題を確認してみないと判断することは難しいですが、自分が受験する大学の出題範囲は事前に募集要項を見て、しっかり確認しておくようにしましょう。
2025年新課程共通テスト「社会」のまとめ
今回の新課程への変更で、歴史総合と公共の新設や科目の再編成、配点の変更、2科目選択する際の組み合わせの注意点など、社会には押さえておくべき点が盛りだくさんでした。
特に総合科目は、共通試験や国公立大学・私立大学の入試の出題範囲に含まれることになりました。また、高校3年生で探究科目に選択しなかった科目の内容の一部が総合科目に含まれたりもするので、高1・高2からしっかり学習しておかなければ、高3になって学び直しが必要になる可能性も出てきます。
今から学校の授業をしっかり聞いて、定期試験ごとに知識を深めていくことが大切になってくると思います。
また、試作問題を見てもわかるように、試験時間は変わらないものの、どの科目に関しても従来よりページ数が増えているため、知識だけではなく、複数の資料やデータを基に考察しながら、思考力・判断力・情報処理能力も問われる形になっていきます。普段の勉強から時事的なテーマについて主体的に興味を持ち、教科書や問題集だけではなく、資料集も活用して学習を進めましょう。
また、一問一答など知識の暗記だけでは太刀打ちできないので、総合科目に必要な視点を参考書で身につけた上で、共通試験の過去問や実戦問題集を利用して、早めに対策していくことをおすすめします。