激動の2022年度、依然高い中学受験熱

 中学受験は、多くの受験生が小学校低学年から受験勉強をスタートし、数年かけて取り組んでいく長丁場の受験です。何年もかけて取り組んできた夢の第一志望校への道を、「今」感染症が流行しているからといって簡単に諦められるものではありません。

 受験者動向へのコロナ禍の影響は、かなり少なくなってきたように見受けられます。昨年、一昨年と避けられてきた遠隔地への受験、また最難関校へのチャレンジも多く見られ、最難関校では激戦の入試となりました。東大や医学部への進学実績が高い学校への人気の集中が見られる一方で、偏差値一辺倒ではなく、学校のもつ教育力や伝統、環境など、多様な価値観で学校を選ぶという考え方も動向に現れています。

3年目を迎えた大学入学共通テストとの呼応

 本年度は、大学入学共通テスト実施3年目の年でもありました。過去、共通一次試験からセンター試験に変わった際、1年目は易しく、2年目は超難化、3年目からある程度落ち着く、といった推移が見られましたが、今回もほとんど同様の状況となりました。昨年、大学受験生を戸惑わせた問題量の増大はそのまま継承され、対応できた受験生とそうでない受験生との間で、差が広がりつつあるようです。

出典:pixta

 中学受験では、こうした大学受験の変化に呼応する形で、傾向が変わってきています。特に難関校では、「共通テストに強い」受験生を獲得したいとの狙いからか、複数資料を組み合わせた出題、対話文形式で初見の問題を扱う、単元学習の知識と日常の体験や経験を紐づける出題、など、大学入学共通テストでも見られるような問題が多数出題されています。

 2023年度中学入試の受験生は、小学2~3年次の移行期間を経て、小学4年から3年間、新しい学習指導要領で学んだ世代です。それ以前と比べ、「何を」学ぶかにはそれほど大きな違いはありませんが、「どう」学ぶかが異なっています。

大学入学共通テストとは

大学入学共通テストは、大学に入学を志願する者の高等学校段階における基礎的な学習の達成の程度を判定することを主たる目的とするものであり、各大学が、それぞれの判断と創意工夫に基づき適切に用いることにより、大学教育を受けるにふさわしい能力・意欲・適性等を多面的・総合的に評価・判定することに資するものです。(大学入試センターHPより)

キーワードは「主体的・対話的で深い学び」

 新しい学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」の視点からの学習過程の改善を重視しています。「主体的」とは、学んでいる事柄を自分に深く関わることとして興味関心を持つこと、「対話的」とは、グループ学習や地域交流などを通じ、自己の考えを広げ、深めること、「深い」とは、教科・科目の枠組みを超え、学んだことを相互に関連づけて問題解決を試みることです。

 これが、中学入試では、「入試問題」として具体化されています。端的にいえば、中学入試、特に難関中学入試においては、「主体的・対話的で深い学び」をどれだけ実践してきたかが問われている、ということになります。

 次の大きな節目となるのが、新学習指導要領下で本格実施される令和7(2025)年度大学入学共通テスト(2025年1月に実施)です。2022年冬には試作問題が公開され、これまで以上に「主体的・対話的で深い学び」が問われることがはっきりしてきました。これに向けて、今後実施される中学入試もこの方針を強く反映したものになると予想されます。本年度の入試を振り返ることで、来年度以降の入試対策の手掛かりがつかめるはずです。

令和7(2025)年度の共通テスト

令和4(2022)年度以降、高校入学時から新しい学習指導要領で学んでいます。それに対応し、大学入学共通テストも令和7(2025)年度から新学習指導要領に対応した試験になります。科目構成が大きく変わる地理歴史、公民、数学、また新たに出題教科として設定される情報について、問題作成の方向性と試作問題が公表されています。
 

※今後のスケジュール
令和5(2023)年6月(予定)「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱」の公表(予告した出題教科・科目等を含む試験の実施方針)
令和6(2024)年6月頃「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施要項」の公表

 近年、中学入試で多く見られる「SDGs」ですが、昨年度同様、各ゴールについて、より個別・具体的に掘り下げる形で出題されています。現在進んでいる教育改革、そして新学習指導要領の内容もまた、このゴールのひとつといえます。SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」の達成に寄与するため、学習指導要領には「持続可能な社会の創り手の育成」が掲げられています。

 新学習指導要領では、育むべき力として「実際の社会や生活で生きて働く知識及び技能」「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力」「学んだことを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力、人間性」が掲げられており、こうした力が身についているかどうかが、難関中学をはじめ、多くの学校の入試問題で問われています。

SDGsとは?

SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)の略。
2015年の国連サミットにおいて全ての加盟国が合意した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中で掲げられた目標で、2030年を達成年限とし、17のゴールと169のターゲットから構成されています。

 

SDGsの目標は、
①貧困や飢餓、教育など社会面の目標

②エネルギーや資源、労働、差別や不平等の解消など、経済面の目標
③地球環境や気候変動など地球規模で取り組むべき環境面の目標
など、世界が直面する問題を網羅的に示しています。掲げられた17のゴールに向けて諸問題を解決し、持続可能なよりよい未来を築くことを目標としています。

各科目の傾向と特徴

 各科目の傾向と特徴をいくつかまとめると、➀文章量の増大 ②複数資料の提示 ③世の中への興味関心、の3点が挙げられます。

 ➀文章量については、各所の分析でも挙がっている通り、明らかに増大しています。単なる“速読”ではなく、正確な理解や整理を伴う読み取りが要求されているため、「量」に対応できる地力をつけるしかありません。

 ②複数資料については、科目を問わず提示されています。資料、すなわち視点を組み合わせることで解答を導き出す、また組み合わせる視点を変えれば結論が変化するという体感を得ながら、資料を“使いこなす”トレーニングが必要です。

 ③世の中への興味関心については、時事はもちろんですが、社会や物事の仕組みについて考え、持っている知識と相互に紐づけていく取り組みが求められます。「どうして?」という日常の素朴な疑問を大事にすること、また算数や社会で複数見られた、統計や経済についての学習を体系的に進めておくことも大切です。

埼玉では圧巻の栄東、千葉は受験者回復で難化

 ここからは、首都圏の中学入試の受験者動向について概観します。

 埼玉エリアでは、例年志願者総数1万名を超える栄東に注目が集まります。本年度もコロナ対策で第1回の入試を10日・11日の選択制にして分散させましたが、2日合計で8,000名弱の出願がありました。出願者総数は13,842名と昨年の規模を大きく上回っています。

 千葉エリアでは、千葉御三家といわれる「渋谷教育学園幕張、市川、東邦大東邦」が軒並み出願者増となりました。コロナ禍の影響で出願者を減らした昨年、一昨年から回復し、コロナ以前の水準に戻りつつあります。

1月入試と併願戦略

首都圏1都3県では、各都県私学協会の申し合わせにより、中学入試解禁日が以下のように決まっています。
・埼玉県…1月10日
・千葉県…1月20日
・東京都/神奈川県…2月1日
そのため、首都圏の中学受験生は、埼玉入試→千葉入試→東京/神奈川入試、と平均して6~8校に出願するのが通例となっています。


弱冠11歳、12歳の小学生にとって受験の重圧は計り知れず、精神的なアップダウンも大きく影響してくるのが中学入試です。したがって、1か月近くにも及ぶ受験シーズンを通じて、第1志望校に向けたピークの調整や合否結果に応じた受験校の変更など、戦略的な受験校の組み立てが非常に重要です。

 

2月の本命の前に1月校を「前受け」したり、2月1日や2日に午前、午後と2校立て続けに受験したりするなど、シナリオは様々に考えられます。子どもに合わせた併願パターンを組み立てられれば、合格の可能性もぐっと高まります。

都内最難関中学は、さらに難化傾向

▶東京の男子中学では、出願者数で開成が7%増、海城が10%増、駒場東邦が8%増でした。麻布はほぼ前年並み、武蔵は隔年現象で6%減、倍率は3.5倍→3.1倍と緩和したものの依然高い水準です。第1回入試を2/1午前に変更した東京都市大付属は、第1回入試でⅡ類2.6倍、Ⅰ類3.3倍と厳しい戦いになっています。

▶女子中学では、御三家の桜蔭が13%増、女子学院が9%減、雙葉が5%増。豊島岡女子が1回で4%減、と分かれています。

▶共学中では、渋谷教育学園渋谷が各日程で男子増、女子減と男女で結果が分かれています。広尾学園は一部日程を除き大幅増、昨年加熱した広尾小石川は難化を嫌気してか、本年度は落ち着いています。新設の芝国際は受験者集中により、相当な倍率になっています。

医学部への進学実績が良好な学校は総じて人気が高く、医学部人気の高さがそのまま出願増につながっているようです。

神奈川の栄光・聖光は変動の波が大、女子は激戦続く

▶神奈川の男子中学では、栄光が9%増、聖光が14%増、浅野は昨年同様でした。隔年現象で増減することの多い栄光・聖光ですが、本年度はいずれも増加しています。

▶神奈川の女子中学では、フェリスが3%減とほぼ昨年並み、洗足学園はさすがに難化しすぎたのを嫌ってか、本年度はやや減少していますが、それでも第1回入試は実質倍率3.2倍と依然厳しい入試です。2024年度から第2回入試を行うと発表した横浜雙葉は、本年度は2%増、倍率は1.7倍と比較的入りやすい状態です。

大学附属中学の動向

▶早稲田系の中学では、早稲田が第1回の入試で10%増、早大学院がほぼ昨年並み、早稲田実業が男子5%減、女子3%減です。

▶慶應系では、慶應中等部が男子15%減、女子6%減、慶應普通部が5%減、慶應湘南藤沢は男子が25%減、女子が17%減となっています。

▶明治系では、共学の明大明治が微減、明中八王子が男子減、女子増、男子の明大中野が減となっています。男子については、日本学園が系属化して明大世田谷となることが発表されたことを受け、日本学園に受験者が流れた影響と見られます。

▶立教系は香蘭もふくめ、全体的に増えています。

▶青学系では、青山学院が微増、神奈川の青山学院横浜英和が大幅増、一方で埼玉の青学浦和ルーテルは減となっており、エリアによって結果が分かれています。

▶中央大系は全体的に減、法政大系は微減でした。

多様化する入試制度、多様化する価値観の中で

 近年、受験科目として英語を選択できる学校は、1都3県の私立中学校のおよそ半数近くにまで達しています。また、いわゆる「適性検査型」の試験を実施する学校もさらに広がりを見せています。「私立中向けの中学受験専門の対策をしなくても受験できる」と謳われ、受験者のすそ野を広げています。

 近年、渋谷教育学園や開成をはじめ、海外大学の合格実績も増えてきています。実際に進学する生徒はまだ多くはないようですが、海外大学への進学も少しずつ増えてきています。また、昨年は桜蔭が東京大学の理科三類合格者数で灘を抜いて全国1位になったことが話題になりました。桜蔭をはじめ、雙葉や豊島岡女子は国公立医学部、私立医学部への進学率がかなり高い学校です。男子校では海城、駒場東邦、共学校では東邦大東邦などが医学部に強い学校として有名です。大学進学というと、東大への合格者数が注目されがちですが、医学部や法学部など、特定の分野に強みを持つ学校という視点で見てみると、学校の持つ価値が新たに見えてくるかもしれません。

 2022年度は、大学と中高が高大連携協定を結んだニュースも複数見られました。協定の内容やレベルは様々ですが、「中高のうちから大学の講座を受講でき、単位取得ができる」「連携枠で大学への推薦を得られる」といった、実質的に附属校に近い地位を保証するような連携を結んでいる学校もあります。高大連携から発展的に系属校化したケースもあるため、将来の大学進学を見据えて連携校となっている学校を志望する、という考え方もできます。

 価値観が多様化する現代社会において、偏差値や大学進学率とは異なる価値観で志望校を選ぶ動きも出てきています。主体的な学びを取り入れたアクティブ・ラーニング授業の実施などは、御三家中など最難関中・高では以前から取り入れられてきましたが、こうした取り組みを行う学校は、近年増加の一途をたどっています。また、世界共通の教育プログラムであるIBコースを設けるなど、海外大学への進学を視野に入れた教育を行う学校も増えつつあります。画一的な進路指導では対応できない入試が広がりつつあるといえるでしょう。

■「高大連携協定」を結んでいる主な私立中高と大学
主な中高 連携先大学
三輪田学園 法政大学
吉祥女子 国際基督教大学、順天堂大学、東京外国語大学、東京学芸大学、東京農工大学
昭和女子大附属 芝浦工業大学、昭和大学
桐朋女子 東京女子大学
豊島岡女子 工学院大学、東京医科歯科大学、東京慈恵会医科大学、東京電機大学、電気通信大学
富士見 東京理科大学
早稲田実業 日本医科大学
光英VERITAS 東京理科大学
十文字 東京薬科大学
東京慈恵会医科大学
山脇学園 芝浦工業大学
國學院久我山 杏林大学
栄東 芝浦工業大学