高1の秋は文理選択の時期

 国立教育政策研究所の調査によると、高校1年生の10月〜12月の時期に文系・理系どちらかのコースの選択をさせて、高校2年生の4月からコース分けでの授業を行う学校が多いようです。つまり、多くの高校生にとって「高校1年生の秋は、文理選択の決断をする時期」となります。

 なお、文理選択が行われるのは、大学志願者割合が9割以上の高校で77%、9割未満6割以上の高校で75%、6割未満3割以上の高校で53%、3割未満の高校で9%となっています。

文系・理系コース選択の時期-高等学校(N=267)

文系・理系コース選択の時期-高等学校※出典: 国立教育政策研究所「中学校・高等学校における 理系進路選択に関する研究」(2013年3月)

 文理選択にあたっては、学校でも以下のようなポイントで指導が行われます。

  • 将来就きたい職業から決める
  • 自分の興味・関心のある分野が何かを自己分析して判断材料にする
  • 大学で勉強したい学問を考えて、その学問を学べる学部・学科を調べてみる

 しかし、文理選択を決定する要素はこれだけではないようです。

経済産業省が40歳未満の社会人を対象に実施した調査によると、文理選択において重視した観点は、理系選択者では「学びたい、関心のある分野との関連性」が最も多いのに対して、文系選択者では「関連する科目の成績が良かったこと」が最も多くなっています。

文理選択で重視した観点
順位 文系選択者 理系選択者
1位 関連する科目の成績が良かったこと 学びたい、関心のある分野との関連性
2位 学びたい、関心のある分野との関連性 関連する科目の成績が良かったこと
3位 上位大学や有名大学への入りやすさ 将来希望する仕事との関連性

※経済産業省「理工系人材育成に係る現状分析データの整理(学生の文・理、学科選択に影響を及ぼす要因の分析)」(平成28年1月28日)をもとに東京個別指導学院が作成

 同調査で文系選択者に対しての問い「理系選択の可能性があるとすれば、どのような条件が必要か」の回答の半数近くは、「数学や理科が不得意でなかったら」というものでした。

理系選択の可能性があるとすれば、どのような条件が必要か(回答者:文系進学者)※出典: 経済産業省「理工系人材育成に係る現状分析データの整理(学生の文・理、学科選択に影響を及ぼす要因の分析)

 同調査では、「文系選択者が高校生時代に不得意だった教科」は数学が最も多く、「数学が不得意だったから」という消極的な理由で文系を選択した生徒は少なくないと考えられます。これに対して、「理系選択者が高校生時代に得意だった教科」は数学が最多です。数学が得意か否かは文理選択に影響があるようです。

 高校生に対して好きな教科と嫌いな教科を尋ねた調査があります。好きな教科のトップは数学。嫌いな教科でもトップは数学でした。中学生に対しての同様の調査でも、好きな教科、嫌いな教科ともにトップは数学です。小学生に対する調査でも算数が同様でした。算数や数学は好き嫌いがハッキリと分かれる教科のようです。

「数学が苦手だから数学の勉強を避けたい」という発想で文系を選択する高校生はかなり多いと思われますが、このような理由での文理選択はお勧めしません。その理由は後述します。

これからの社会で求められる人材からの逆算という考え方

 お子さまが興味・関心のある分野をはっきりと持っていたり、大学で学びたい学問や進みたい道が決まっていたりするならば、保護者はその道を突き進む応援をしていただきたいと思います。しかし、自分が何をやりたいのか、何に向いているのかわからないという高校生も少なくありません。そのような場合は、「これからの社会で求められる力を伸ばしていくために文理選択する」という考え方もあります。

 明治大学の業種別就職データをみると、卒業生全体で24.5%が情報通信業に就職しています。文学部でも最多が情報通信業で24.1%になっていて、社会のニーズが変わってきていることがわかります。みずほ情報総研株式会社の調査では、人材のスキル転換が停滞した場合、2030年には先端IT人材が54.5万人不足するという試算が出ています。

理系人材の育成は国策 ~理系学部への門戸が広がりつつある

 政府の教育未来創造会議は2022年5月、現在35%の理系学生の割合を50%程度まで増やす目標を盛り込んだ提言をまとめました。*⁴ この提言の方向性に沿った様々な動きの中から、以下の4点をご紹介します。

  1. 理系学部の新設・再編、充実の動き
  2. 理系学部で女子学生枠新設の動き
  3. 東京23区内で理系学部の収容定員増(新設)の動き
  4. 私立大学理系学部学生への就学支援の動き

1.理工系学部の新設・再編、充実の動き

 文部科学省は2023年7月21日に、理系学部の新設や拡充に関する2つの支援事業の選定結果を発表しました。選ばれた大学は、今後、理系学部(再編も含む)の募集人数を増やしていくことになります。

(1)学部再編等による

特定分野への転換支援

選定大学例

(2)高度情報専門人材

確保に向けた機能強化支援

選定大学例

青山学院大学 北海道大学
大妻女子大学 東北大学
駒澤大学 東京大学
芝浦工業大学 東京工業大学
中央大学 一橋大学
東洋大学 大阪大学
日本女子大学 神戸大学
明治学院大学 九州大学
立教大学 筑波大学
神奈川工科大学 千葉大学
椙山女学園大学 電気通信大学
京都女子大学 横浜国立大学
桃山学院大学 奈良女子大学
追手門学院大学 横浜市立大学
甲南大学 名古屋市立大学
武庫川女子大学 大阪公立大学
福岡工業大学 北里大学
横浜市立大学 工学院大学
名古屋市立大学 東京都市大学
北九州市立大学 順天堂大学

※文部科学省「成長分野をけん引する大学・高専の機能強化に向けた基金による継続的支援『大学・高専機能強化支援事業』の初回公募選定結果について」(2023年7月21日)をもとに東京個別指導学院が作成

 【支援1】学部再編等による特定成長分野への転換等に係る支援

 1つ目の大学に対する支援事業は、デジタルや脱炭素を中心とした成長分野の人材を育成するため、理系学部への転換を助成するというものです。理系学部が比較的少ない公立大学や私立大学を後押しするのが主な狙いで、1校当たり最大20億円を助成します。選定校の中には青山学院大学、立教大学、中央大学、関西大学といった大規模有名私立大学も含まれています。女子大学も、大妻女子大学、日本女子大学、椙山女学園大学、京都女子大学、武庫川女子大学などが選定されています。

【支援2】高度情報専門人材の確保に向けた機能強化に係る支援

 2つ目の大学に対する支援事業は、情報系の高度専門人材の即戦力を養成するため、国立大学や高等専門学校も選定対象として、専門人材の育成に実績がある学部・研究科などの定員を増やすのが主な狙いで、最大10億円を助成するというものです。国立大学を中心に、公立・私立大学、高等専門学校など51校が選定され、女子大では奈良女子大学が選定されています。

2.理系学部で女子学生枠新設の動き

 昨今、各大学で入試に女性枠を設けるなどの動きが広がっていることはご存じの方も多いと思います。日本の大学での女性の理工系学生の比率はOECD(経済協力開発機構)加盟国で最低水準という事情もありますが、理系学生全体を増やしていくための伸びしろとして、女性の理系学生を増やしたいという狙いもあるでしょう。

女子学生枠を設けている大学の例

国公立大学 私立大学
東京工業大学 東京理科大学
名古屋大学 芝浦工業大学
名古屋工業大学 東京都市大学
兵庫県立大学 神奈川大学
宮崎大学 愛知工業大学
富山大学 大同大学

※各大学サイトより抜粋して東京個別指導学院が作成

3.東京23区内で理系学部の収容定員増(新設)の動き

 東京23区内の大学は、法律により全国で唯一、学部・学科の定員が増やせないように規制がかけられていて、2018年からの10年間、原則的に定員を増やすことができません。この規制の狙いは、急速な少子化に伴い地域の活力が低下していることから、地方創生の理念のもと、東京23区内の大学の定員を増やせなくすることで、地方の大学で学ぶ学生を増やそうというものでした。*⁵

 規制の効果はあったのか、2018年度入試から2022年度入試にかけての私立大学の定員充足率を見てみましょう。東京都内(23区外も含む)の私立大学の定員充足率は103.66%から103.44%と、ほぼ変わっていません。対して、三大都市圏以外の地域の私立大学の定員充足率はというと、100.81%から96.73%と大きく低下してしまいました。規制の効果はあまり出ていない状況です。

私立大学の地域別入学定員充足率推移※三大都市圏とは、埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫の8都府県を指します※日本私立学校振興・共済事業団「令和4(2022)年度私立大学・短期大学等入学志願動向」をもとに東京個別指導学院が作成

 このように、地方の大学で学ぶ学生が増えているとは言いがたい状況下に、政府は方針を転換しました。高度デジタル分野の人材は産業界からのニーズが極めて高く、需給バランスに著しい不均衡が生じていることから、理系人材の育成は急務です。

 そこで、この法律の規制が終了する2028年を待たずに、東京23区内の大学の定員の増加規制に例外を設けることにしました。この改正により、学位分野が理学又は工学に関するもので高度なデジタル人材を育成する情報系学部・学科(学科新設を含む)であれば、時限的な措置ながら、定員を増やすことができるようになったのです。(2023年6月9日施行)*⁶

4.私立大学理系学部学生への就学支援の動き

 さらに、所得中間層の家庭の理工系、農学系の私立学生に対して、人文・社会科学系との授業料の差額を減免する就学支援制度を2024年度から開始する予定です。*⁷ 文系に比べて理系の学費が高いことが理系進学を思いとどまる理由にならないよう、配慮した施策といえます。

大学の年間授業料平均値
国立大学 535,800円
公立大学 536,195円
私立大学文系 815,069円
私立大学理系 1,136,074円

※文部科学省「令和3年度私立大学入学者に係る初年度学生納付金平均額(定員1人当たり)の調査結果について」「平成十六年文部科学省令第十六号国立大学等の授業料その他の費用に関する省令」「2022年度学生納付金調査結果」をもとに東京個別指導学院が作成

 このように政府は、定員を増やしたり、女性特別枠を設けたり、学費の支援をしたりと、理系学部への入学希望者への門戸を広げようとしています。

 一方、文系はどうでしょうか。これは私見ですが、少子化が加速して48%の私立大学が定員割れしている中にあって、理系学生を増やす施策に予算措置を講じている政府には、文系学部や文系学生を減らしていきたいという思惑があるのではないかと考えています。2015年にも文部科学省が国立大学に出した通知の中で、教員養成系学部・人文社会科学系学部については、18歳人口の減少や人材需要等をふまえた組織見直し計画を策定し、学部などの廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むように促しています。*⁸

進路を決めかねている子どもにこそ数学の勉強を継続する大切さを伝える

 先述したように、高校1年生の秋に文理選択を実施する高校が大半です。とはいえ、生徒にとってはやっと高校に慣れてきたという時期であり、これから大学への興味関心が高まっていくという段階です。将来やりたいことや大学で学びたい学問、行きたい大学が見つかっていない高校1年生は少なくありません。苦手な教科を克服する可能性も大いにあります。

 本コラム冒頭に、数学の勉強を避けたいからという発想で文系を選択するのはお勧めしないと記しました。その理由は「高校1年生の段階でなんとなく数学を避けてしまうことは、進路選択の幅を狭めるから」です。

 現在の大学入試一般選抜では、数学の勉強を続けていると文系・理系どちらの学部へも進学の選択肢がありますが、数学を受験科目から外してしまうとほぼ私立大学文系の進学に限られてしまいます。現在の大学入試は一般選抜だけではなく、学校推薦型選抜や総合型選抜もありますが、そのような入試方式においても大学入学共通テストや基礎学力試験で数学を課す大学は少なくないのです。

数学の勉強を避けた場合の進路選択肢
  文系学部 理系学部
国立大学
×
×
私立大
×
数学の勉強を続けた場合の進路選択肢
  文系学部 理系学部
国立大学
私立大

○:進路選択が可能
×:進路選択が難しい

 大まかな目安であり、個々の大学・学部・入試方式により例外的に異なる場合もあります。

私立大学文系でも数学必須入試が増えている

 さらにいえば、目指したい進路が私立大学文系の場合でも、数学の勉強を続けることをお勧めします。文系でも、数学を避けてしまうと受験できない私立大学があるからです。

 早稲田大学 政治経済学部が2021年度一般選抜から数学Ⅰと数学Aを必須化して話題になりました。上智大学も経済学部経済学科の一般選抜では、全ての入試方式で数学が必須となっています。2024年度に開設予定の明治学院大学 情報数理学部の一般入試は、現代文・数学・英語の3教科入試です。これらの学部学科は、数学なしには挑戦できないのです。*⁹

「数学」を受験に利用しない場合の出願可否2023年度入試

【早稲田大学 政治経済学部】
入試方式(略称) 数学なし受験可否
一般選抜
×
共通テスト利用
×
【上智大学 経済学部経済学科】
入試方式(略称) 数学なし受験可否
TEAP利用型
×
共通テスト併用
×
共通テスト利用3科
×
共通テスト利用4科
×

早稲田大学度 入試要項 上智大学 入試要項より東京個別指導学院が作成

 2023年2月24日の中央教育審議会大学分科会では、「各大学が学力検査で課す教科・科目は、各大学の教育(特に初年次に開設される授業科目の履修)に必要なものを課しておくことが第一に考えられる選択肢である」という指針が示されました。*10 今後は、特に経済学や情報学の系統で、入学試験で数学を課す大学が増えてくる可能性があります。

 また、数学を選択しなくても受験できる私立大学の中には、入学試験で数学を選択した受験生を積極的に合格させている大学があります。慶應義塾大学では、経済学部・商学部ともに「数学を必須とするA方式」と、「数学不要で、経済学部は地理歴史、商学部は論文テストを必須とするB方式」の2つの方式から選択できます。経済学部ではB方式の定員210名に対して、数学必須のA方式は2倍の420名。商学部ではB方式の定員120名に対して、数学必須のA方式は4倍の480名です。数学を必須とする入試方式で、より多く学生を募集しているのです。

慶應義塾大学商学部・経済学部の一般選抜状況
 

商学部

A方式

数学あり

商学部

B方式

数学なし

経済学部

A方式

数学あり

経済学部

B方式

数学なし

2023年

2024年

募集人員

480 120 420 210

2023年

受験者数

3,947 2,404 3,286 1,844

2023年

最終合格者数

1,484 344 865 380

2023年

実質倍率

=Ⓒ/Ⓑ

2.66 6.99 3.8 4.85

=Ⓒ/Ⓐ

3.09 2.87 2.06 1.81

※最終合格者数には「補欠者」からの入学許可者を含みません
慶應義塾大学 学部入学案内 一般選抜 慶應義塾大学 2023年度 一般選抜 統計総括より東京個別指導学院が作成

 入試結果をみると、両学部ともⒹの実質倍率は数学必須のA方式の方が低く、Ⓔに算出したように募集人員に対する合格者の割合は数学必須のA方式の方が高いことがわかります。これは「数学で受験した受験生に多く入学してほしい」という大学からのメッセージではないでしょうか。

 東洋大学でも、文系学部の一般選抜で数学必須入試の募集人員を拡大し、2024年度入試では文系9学部の全ての学科で数学必須方式の入試を行います。数学必須入試の募集人員を拡大するということは、数学を入試に利用しなくてよい入試の募集人員を減らすということになります。東洋大学では「数学必須入試の利用者は、入学後も積極的に授業での議論に参加するなどさまざまな場面で活躍しており、やはり幅広く学んできた学生はポテンシャルが高い」と評価しています。*¹¹

数学受験者の方が年収が高いというデータ

 保護者にとって、お子さまの将来を考えるうえで、生活に困らないだけの収入があってほしいとの思いもあると思います。この点で、注目すべきデータがあります。「理系出身者と文系出身者の社会人の所得差を比較すると、理系出身者の方が高い」という調査結果があるのです。日本における主要3私立大学文系学部(経済系学部)出身者を対象とした調査でも、数学受験者の年収が数学未受験者の年収を上回っていることがわかっています。

文理別大卒以上就業者年収比較
性別 文理

平均値

年齡(歲)

平均値

仕事からの年収(万円)

男性 文系出身者 46.09 559.02
男性 理系出身者 46.19 600.99
女性 文系出身者 44.67 203.00
女性 理系出身者 37.88 260.36

※独立行政法人経済産業研究所「理系出身者と文系出身者の年収比較-JHPS データに基づく分析結果」(2011)をもとに東京個別指導学院が作成

数学受験状況卒業年次別平均所得※一般社団法人日本数学会「学習科目選択と大学卒業後の所得」(2014 神戸大学社会科学系教育研究府特命教授 西村和雄)をもとに東京個別指導学院が作成

 この結果は、数学をよく勉強する人が生産する付加価値額が一般的には高いことを示唆しているのではないでしょうか。この傾向は今後、さらに強まることが予想されます。現実空間と仮想空間が融合されたSociety5.0の到来やデジタル社会が進展し、変化が激しく不確実性の高まるこれからの時代においては、機械やAIでは代替できない付加価値の高い仕事を行うことが求められます。人生は収入がすべてではありませんが、保護者にとっては気になる結果ではないでしょうか。

子どもの進路選択で母の影響力は特に大きい

 ベネッセコーポレーションが、4年制大学に通う大学生を対象に行った「進路選択に関する振返り調査」の中に、「高校時代に進路を考えたときに、どのような人への相談を参考にしたか」を尋ねた質問があります。これによると、女子に対しては最も多い回答は「母」で、「高校の先生」を上回っています。男子は、「高校の先生」が最も多くなっていますが、次に参考にしたのは「母」ですので、高校生の進路検討には母親の影響力が非常に大きいことがわかります。

意見を参考にした相談相手※ベネッセコーポレーション「進路選択に関する振返り調査」(2005)のデータをもとに東京個別指導学院が作成

 保護者は、特定の教科に対して消極的な発言をしないことが重要です。お子さまが聞こえる場で「数学は難しい教科だ」「うちは数学が苦手な家系」「私も数学が苦手だった」といった発言をするのは控えましょう。塾での面談でも「うちの子は本当に数学ができなくて」などと話す保護者が少なからずいらっしゃいますが、隣で聞いているお子さまに「自分は数学が向いていないかもしれない」という思い込みを植え付けることになりかねません。

 指導の現場でも、数学への苦手意識は「思い込み」が多いと感じます。高校の数学に関していえば「生まれながらの才能は、努力に比べて大して重要でない」という海外のレポートもあるのです。*¹² このレポートには、「数学的能力はほとんどが遺伝的であるという考えは、知性はほとんど遺伝的であるという考えよりも間違った推論」とまで書かれています。

 子どもにとって保護者の影響力は大きいということをいつも胸に刻み、思い込みを植え付けるような言葉は使わないようにしたいものです。

おわりに

「どうして成績がよくないんでしょう」という相談をよく受けますが、ほとんどの場合、その原因は「適切なやり方で適切な量の学習をやっていないから」です。数学の授業がわからないとき「自分には数学の才能がない」「才能がないのだから偏差値も上がらないだろうし意味がない」と考えるか、「どのように勉強したらわかるようになるのだろう」「数学の先生に聞いてみて、その通りにやってみよう」と考えるかによって、その後の数学の成績は大きく変わります。「やればできるはず」「努力次第で苦手を克服できるはずだ」と信じて行動に移せば、本当に学力は上がるのです。

 高校数学は小中学校時代の算数・数学の学習内容を土台として学びますから、義務教育段階での学習内容の理解が不十分な箇所があると、すぐにできるようになりません。しかし、その場合は「できるところまで戻って」学べば、以前よりはできるようになります。

 保護者が高校生だった頃と異なり、できるところまで戻って学習できるアプリも出ていますし、集団塾と異なり、一人ひとりに合わせた戻り学習が可能な個別指導塾もあります。高校1年生の秋は、高校の数学の授業が始まって数か月しか経っていませんから、戻って学習したとしてもリカバリーが可能でしょう。

 保護者の皆さまには、文理選択を考えるうえで、くれぐれも「数学を避けたいから」という理由でお子さまが判断しないように接していただきたいと思います。そして、「苦手」は思い込みであり、努力次第でできるようになるはずだというマインドでお子さまに接し、成長を見守っていただきたいと願っています。

*¹ 学研教育総合研究所 「高校生の日常生活・学習に関する調査(2018年9月調査)」「中学生の日常生活・学習に関する調査」「小学生の日常生活・学習・自由研究等に関する調査
*² 明治大学「卒業生就職データ2022
*³ 経済産業省委託調査「IT人材需給に関する調査(みずほ情報総研株式会社)」(2019年3月)
*⁴ 内閣官房「教育未来創造会議第一次提言のポイント」(2022年5月)
*⁵ 地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による若者の修学及び就業の促進に関する法律(平成30年6月1日公布)
*⁶ 文部科学省「特定地域内学部収容定員の抑制等に関する命令の一部を改正する命令の施行について(通知)」(令和5年6月9日)
*⁷ 文部科学省「「こども未来戦略方針」の「加速化プラン」等に基づく高等教育費の負担軽減策について(令和6年度~)
*⁸ 文部科学省「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて(通知)」(平成27年6月8日)
*⁹ 早稲田大学 上智大学……共通テスト利用方式(3教科型・4教科型)、学部学科試験・共通テスト併用方式、TEAPスコア利用方式(全学統一日程入試) 明治学院大学
*¹⁰ 中央教育審議会大学分科会「教学マネジメント指針(追補)」(令和5年2月24日)
*¹¹ 東洋大学 株式会社 進路企画による東洋大学 入試部長 加藤建二氏へのインタビュー
*¹² The Atlantic - The Myth of 'I'm Bad at Math' - Miles Kimball , Noah Smith, and Quartz(OCTOBER 28, 2013)

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