自分では「できた」と思ったのに、結果は「できていない」ときに頻出する言葉
学校や塾で行われる定期試験や模擬試験の結果が気になり、試験を終えて帰宅した子どもに「どうだった?」と声をかける保護者は少なくないと思います。「あまりできなかった」「イマイチ」といった声や無言の返事が返ってくれば心配し、「できた」「バッチリ」といった声が返ってくれば安堵するのは保護者の心情として当然でしょう。しかし、試験直後の子どもの感触と、返ってきた試験の結果が一致しないということがしばしばあると思います。
Ⓐは、感触と結果が「できた」で一致しており、順調といえます。Ⓓは感触が「できなかった」で結果も「できていない」というケースです。保護者にとっては想定内の結果とはいえ、子ども自身も反省して学習への取り組みについて改善策を考えることが多いようです。
一方で、感触と結果が異なるⒷやⒸは保護者や子どもにとって想定外の事態です。Ⓑの場合は、「運良く正解を記入してしまったのではないか」といった視点から、似たような問題を解いて学習が定着しているかどうか確認する必要があるでしょう。Ⓒの「感触はよかったが結果は想定外に悪かった」という場合は、保護者や子どもにとって非常にショックなことかと思います。
実は、頻度としてはⒷよりもⒸが圧倒的に多いように感じます。その際に登場してくるのが、『ケアレスミス』『凡ミス』『うっかりミス』という名の誤答です。
運悪く誤答してしまったら『ケアレスミス』なのか?
デジタル大辞泉(小学館)によると、ケアレスミスとは、『《careless mistakeの略》不注意による誤り。軽率なまちがい』とされています。
保護者からの相談でも「『ケアレスミス』が多くて困っています」「うちの子、凡ミスさえしなければ」「家ではできているのですが、試験になるとうっかりミスばかり」というようなお悩みを聞きます。子ども本人からも、「本当はわかっていたが、たまたま試験では勘違いした」「たまたま正答を書き間違えた」「うっかり計算ミスをした」などという言葉を聞きます。塾や学校の先生の中にも「『ケアレスミス』で今回の試験では、残念な結果でした」「授業や宿題では正解できていたので凡ミスですね、もったいない」と個人面談などで話すことがあるようです。
ケアレスミスという言葉には、「学力や知識量の不足による誤答ではなく、注意不足や勘違いといった原因によって運悪く誤答してしまった」というニュアンスが込められているように感じます。確かに、「学力不足」「勉強不足」と言われるよりも、「たまたまできなかった」「運がなかった」と言われたほうが、子どもも保護者も悪い気がしないでしょう。指導する先生にとっても「しっかり指導して学力はつけているのだが、ちょっと間違えてしまって残念だ」と解釈したほうが同様に悪い気がしないでしょう。
しかし、これでは『ケアレスミス』はいつになってもなくならないように思います。
◎こんな発言には要注意◎
「本当はわかっていた」 「勘違いした」 「うっかりしていた」 「あわてて読み違えた」「書き間違えただけ」 「その時だけ思い出せなかった」 「普段はできる」
『ケアレスミス』とは学力不足と得点力不足
『ケアレスミス』の原因は、大きく分けて2つあると考えています。それは、学力不足と得点力不足です。理解や定着が不十分のため、知識や技能をいつでも使いこなせるほどの習熟度ではないということです。まず、学力不足から見てみましょう。
■学力不足 3つの状態
①知識や技能がまだ身についていない
②知識や技能が身についているが定着していない
③知識や技能が定着しているが、取り出したり組み合わせたりして活用できていない
なぜ誤答したと思うかを子どもに尋ねたとき、自分に知識や技能が足りないと感じていた場合は、『ケアレスミス』とは言いません。「わからなかった」「習っていないものが出た」と言います。
「わかっていたけれど、勘違いした」と返答することがあります。これは、「①知識や技能がまだ身についていない」の状態であり、知識や技能を中途半端に覚えていた場合によく出てくる言葉です。「わかっていたけれど、たまたま思い出せなかった」という場合は、「②知識や技能が身についているが定着していない」の場合が考えられます。「わかっていたけれど、勘違いして解けなかった」「何だ、そんなことをきかれていたのか」などと答えた場合は、「③知識や技能が定着しているが、取り出したり組み合わせたりして活用できていない」の場合が少なくありません。
①~③のすべてが客観的に見れば学力不足による誤答です。ところが、『ケアレスミス』と結論づける子どもは大変多くいます。
例えば、小学3年生では割り算を習います。割り算を解く際に、小学1年生で習った繰り下がりのある引き算を間違えてしまった場合を考えてみましょう。引き算ですから『ケアレスミス』だと言いたい気持ちもわかります。しかしながら、できたりできなかったりするようであれば、それは習熟度が不足していると言わざるを得ません。基礎トレーニングが足りないため当たり前のように正答が出せる学力に到達していない、「学力不足の状態」なのです。
一方の「得点力不足」とは、以下の状態です。
■得点力不足 3つの状態
①問題を解く時間配分を考えられていない
②解ける問題と解けない問題を見極めて解く順番を決められていない
③問題で尋ねられていることに正対した解答を解答欄に記入できていない
特に入学試験の場合は、制限時間内に多く得点できた受験生が高く評価され、合格の可能性が高まりますので、「①問題を解く時間配分を考えられていない」や「②解ける問題と解けない問題を見極めて解く順番を決められていない」が重要になります。学力があっても、「③問題で尋ねられていることに正対した解答を解答欄に記入できていない」ようであれば筆記試験では「わかっていない」と判断され、得点にはなりません。③に多い原因は、時間不足から来る「焦り」です。
試験で必要な「学力」と「得点力」とは何か
試験監督をしていると気付くのですが、試験になると普段の学習よりも速いペースで問題を解く子どもがいます。より多くの問題を解いて一問でも多く正解したいという思いからでしょう。しかし、普段と違うペースだと、知っているはずの解き方で解かなかったり、焦って問題を読み違えたりと、思わぬミスをしてしまいがちです。
一方で、「落ち着いて解いたら正解できたのに」と言いたいところですが、普段から速く解けないのであれば、習熟度が不足しているともいえます。試験では、学力と得点力の両方が必要です。その定義は以下のようになります。
- 学力……問題を解いて正答を出せること
- 得点力……焦らずに、普段やっている通りに問題を解き、正答を記入し、時間内に解答を終えられること
知識や技能をいつでも使いこなせるような習熟度であれば、いつでも、最適な解法で、迷わず、速く解けるのですから、突き詰めて考えれば、得点力不足も学力不足に行き着きます。私自身は、『ケアレスミス』が多いと自ら言う子どもは、問題を解く回数が不足している「演習不足」であることが多いと考えています。
「もっと注意して解きなさい」で『ケアレスミス』が減らない理由
せっかちな性格で早とちりしてしまう子どももいますが、「性格的なものだから『ケアレスミス』をしても仕方がない」と考えてしまっては、『ケアレスミス』問題は解決しません。また、「『ケアレスミス』をしないよう注意して解きなさい」と子どもに言っても、『ケアレスミス』はなくなりません。先述したように、『ケアレスミス』の根本は演習不足であり、精神論では解決しないのです。
とはいえ、思わぬミスをする可能性は誰にでもあります。保護者が業務上の管理職やリーダーだったとして、メンバーがミスをしてしまった場合、叱責するだけで同様のミスがなくなるでしょうか。ミスをした原因は何だったのか、同様の事案がこれまで起きていなかったか、事例を収集・分析して、ミスを防ぐにはどうしたらよいかを考え、仕組み化しようとするでしょう。
その際に、原因分析や再発防止策を一方的に押しつけるのではなく、メンバーと一緒に考えて作り上げていくと、納得が得やすく、浸透も速いと思います。これは子どもの勉強でも同じことです。
得点力不足による『ケアレスミス』を減らすには
では、『ケアレスミス』を減らすためにはどのような対策をするとよいのでしょうか。
まずは、誤答があるということは学力不足であり、演習が不足している状態ですから、問題を解く回数を増やしましょう。並行して、試験での得点力を上げるための対策を取りましょう。具体的には「ミスの事例収集と分析」です。
「分母と分子のマークミスが2回」「問われていることと違うことを答えたことが3回」といったように、ミスの例を集めてパターンを見いだし、傾向を分析していきましょう。そうして「あなたがやってしまいがちな『ケアレスミス』はこの3つだよ」などと、具体的に示すことをお勧めします。
すべての子どもが同じような『ケアレスミス』をするとは限りません。私自身、きょうだいを指導したことは数えきれないほどありましたが、きょうだいでも『ケアレスミス』のしかたが異なります。想定される『ケアレスミス』の原因をすべて挙げると膨大な量になりますし、やったこともないミスに対して注意を払えと話せば、かえって注意が拡散しかねません。
こういった収集と分析が保護者の手に余るという場合は、学校や塾の先生に問い合わせてもよいでしょう。子どもの勉強をよくみている先生ならば把握しているはずです。
試験会場(試験本番)でできる『ケアレスミス』対策
次に、実際の試験会場(試験本番)でできる『ケアレスミス』対策を挙げます。これらは得点力不足による誤答を防ぐための対策です。
ⓐ見直したときにわかりやすいような書き込みをする
問題文で必ず見直したい箇所へのマークなど、適切な書き込みをしましょう。
〈例〉
「抜き出しなさい」を○で囲む
「正しいものをすべて答えなさい」に下線を引く
算数・数学や理科などでは、計算過程を見やすい字で書く
ⓑ指さし確認をする
交通機関や工場・建築現場などミスした場合の影響が大きい業務ほど、丁寧に指さし確認を実施しているのはご存じかと思います。
〈例〉
解答欄に記入した後で、ⓐの内容を指さし確認する
Ⓒ時間を計って問題を解く
焦りからくる得点力低下を防ぐためには、自分が読み飛ばしや計算ミスをしないペースを体得しておきましょう。国語や英語の問題を読む時間や計算時間を記録して、1分あたりで読める語数や行数を把握し、自分にとっての最適ペースを見つけておきましょう。
〈例〉
時計を見ながら、自分にとって最適なペースで解く
ⓓ見直し時間をとる
漠然と見直しをするのではなく、ⓐをもとに間違えやすいポイントを自覚し、見直し時間で確認すべき点を覚えておきましょう。
〈例〉
グラフの縦軸と横軸の読み違いがないかを確認する
移項時の符号変え忘れがないかを確認する
ⓔマークミス対策をする
第8回のコラムで「約9割の受験生がマークシートへの転記ミスをしている」と記しました。大学入学共通テストだけではなく、私立大学入試、高校入試、中学入試でもマークシート方式が取り入れられています。マークシート方式採用校の受験生は必ず対策を行いましょう。
〈例〉
マークシートへの記入は大問ごとに行う
飛ばした問題のマーク部分に印をつけておく
これらの『ケアレスミス』対策は、子どもにとっては負担に感じることもあるため、本人が対策の意義を知って納得していることが重要です。そのために先述した「ミスの事例収集と分析」が必要になります。
また、試験の時だけやろうとしてもできるものではありませんし、試験で普段と違うことをやろうとすると想定外の『ケアレスミス』を生みかねません。試験では「普段の勉強通りのことを、普段通りにやれるような状態に近づける」のが最も望ましいのです。
受験生の場合は、入試本番で『ケアレスミス』対策を実行できるように、「普段の勉強でもやることが当たり前」となっておく必要があります。今すぐ普段の勉強に取り入れて習慣化しましょう。試験で『ケアレスミス』が多いか少ないかは、日々の勉強の結果なのです。日々の勉強で『ケアレスミス』を減らすことができれば、入試本番まで2~3か月しかないような時期であっても得点を伸ばすことが可能です。
子どもの心身の状態も思わぬミスの一因
誰しも心身の状態によっては普段ではしないような間違いをしてしまうことがあります。試験を受けていたときの状態を冷静に保護者が聞いてあげることで、原因が掴め、再発防止策を考えることができるでしょう。例えば、以下のような内容です。
- 眠かった……試験前夜に緊張感から眠れなくなり、睡眠不足に
- おなかがすいていた……食事の時間がいつもより早く、空腹に
- 疲れた……過密スケジュールで元気がなくなってしまった
- イライラしていた……試験当日に家族や友人と口喧嘩をしてしまった
試験が近づくにつれて、心配するあまりきつい言葉を発してしまいがちになる保護者を見かけますが、試験に臨むのは子どもです。保護者は子どもの心身を健やかに保つことを第一に考えていただきたいと思います。
「なぜミスをしたのか」と自分を客観視し、「ミスを防ぐためにどうしたらよいのか」を考えて実行することは、学校だけでなく社会に出てからも役に立つスキルです。子どもにとってはまさに今が、そのスキルを身につけている成長段階なのです。
おわりに ~保護者の接し方のコツ~
『ケアレスミス』があったとき、保護者はどのように子どもと接したらよいでしょうか。まず、ただ叱るのではなく、寄り添って一緒に考えましょう。そして、「本当はわかっていた」という言い分をいったん受け止めましょう。さらに、ミスをしたという「結果」ではなく、ミスをした「原因」に注目する姿勢を見せてほしいと思います。
「そうだよね。わかっていたのにミスをしてしまったのだから、何か理由があるよね。問題を解いているときのあなたに何が起きたのか、思い出してみよう」「また同じことが起きたら残念だよね。どうしたらなくなるだろう。何かできることはないかな?」と、一緒に振り返って、対策を考えていくのです。そうすると、ミスは減っていくと思います。
模擬試験や入試過去問題演習などで『ケアレスミス』をしてしまった際も、「入試本番ではなくて本当によかった。こういう間違え方をすることもあるのだという事例をひとつ収集できたね。本番で同じことをしないように確認するポイントをゲットできたね」と、前向きに接してもらいたいものです。