首都圏私大の約半数が収容定員割れしている
全国の私大で2024年度の入学定員充足率が100%未満の大学の割合は59.2%*²となり、大きく報道されました。では、収容定員充足率の状況はどうなっているでしょうか。1都3県の2024年度の状況は【表1】の通りです。東京都は62%の大学が収容定員を充足していますが、他3県では充足していない大学が50%を超えます。千葉県は3分の2の大学が未充足状態です。これは、受験生の志望大学が大規模な総合大学に流れがちで、大規模大学が東京都に集中していることが影響しています。

※日本私立学校振興・共済事業団「大学ポートレート」学生情報*³ (2024年12月10日確認)をもとに東京個別指導学院が作成
*²日本私立学校振興・共済事業団「令和6(2024)年度私立大学・短期大学等入学志願動向」
*³日本私立学校振興・共済事業団「大学ポートレート」学生情報
収容定員割れ私大は、年内入試を重視
収容定員割れは私大に与える経営面でのデメリットが大きく、多くの私大が年内入試を重視して、早期に入学者を確保しようとする動きに出るのは当然でしょう。【表1】の2024年度収容定員未充足の90大学のうち、入学者の入試方式が判明している69大学の2016年度と2024年度の合計入学者数を【図2】で比較してみました。
この69大学の入学者全体は対2016年度比で約91%と減少していますが、学校推薦型選抜(指定校・公募・内部進学等)は約102%とほぼ横ばいです。総合型選抜(旧AO入試)が約130%と大きく伸ばし、約59%と大きく減らした一般選抜よりも実数で上回りました。一般選抜入学者の割合(一般選抜入学者数/入学者総数)は約42%→約27%と大きく減少しています。

現在、収容定員充足率で苦しんでいない大学でも、一定数の入学生を年内に確保しておきたいと考えても不思議はありません。このため、付属校や系列・高大連携校からの入学者枠や、指定校推薦枠を増やしている大学は少なくありません。これは受験生や保護者の「早期に進学先を決めたい」というニーズに応えるものであり、大学と受験生(&保護者)の思惑は一致しているのです。
文部科学省の調査によると、2016年度の私立大学入学者総数は47万8,320人、2024年度は47万9,227人とほぼ同数です。しかし一般選抜での入学者の比率は10ポイントも低下し、年内入試志向が強まっていることが数値の上でも表れています。
次に、収容定員充足率が重視されるようになった経緯と、収容定員充足率の過不足が与える影響について見てみます。
入学定員厳格化から収容定員厳格化へ
2016年度入試から、入学定員を超過した私立大学に対して、文部科学省からの補助金の配分基準を厳しくする施策*⁴が行われてきました。収容定員8,000人以上の大規模大学の場合、入学定員数に対する入学者数が2016年度は1.17倍以上、2017年度は1.14倍以上、2018年度1.10倍以上になると補助金が不交付となるというものでした。国からの補助金は、私大にとって教育・研究内容や施設充実のために重要な財源で、約1割を占めています*⁵。
入学定員を大幅に超えて補助金がカットされないように、私大側は正規合格者数を絞り込み、入学手続き状況を見ながら小刻みに追加・繰り上げ合格を発表するようになりました。合格者の絞り込みにより、私大の受験難易度は大幅に上昇しただけではなく、いつ追加合格の連絡が来るのかわからないといった不安定な状況に置かれる受験生・保護者が増え、入学金相当額を他大学にも支払って、入学権利を確保しておかなければならないという弊害も指摘されました。
このため文部科学省は、2023年度から私大への補助金の不交付基準を、入学定員超過率ではなく収容定員超過率に改めました*⁶。これにより、仮にある年度の入学者数が想定を超えたとしても、翌年度以降に入学者を減らすなどして複数年度で充足率を調整することができるようになりました。このルール変更により、どのようなことが起こるのでしょうか。
*⁴文部科学省「平成28年度以降の定員管理に係る私立大学等経常費補助金の取扱について(通知)」
*⁵文部科学省 私立学校・学校法人基礎データ
*⁶文部科学省「令和5年度以降の定員管理に係る私立大学等経常費補助金の取扱いについて(通知)」
収容定員をオーバーすると補助金がカットや不交付になる
収容定員の不交付基準となる超過率は、2023年度から2025年度にかけて段階的に引き下げられています。収容定員規模ごとの引き下げ(医・⻭学部は別基準)は大学規模によって異なります。収容定員4,000人未満の大学は、2023年度→2025年度にかけて、1.5倍→1.4倍→1.3倍。収容定員4,000人以上8,000人未満の大学は同じく1.4倍→1.3倍→1.2倍。収容定員8,000人以上の大学は、同じく1.3倍→1.2倍→1.1倍です。
これは不交付基準であり、不交付基準をクリアしていても、収容定員超過率が高い場合は【表3】のように補助金が減額されます。反対に収容定員に近ければ近いほど、補助金増額というインセンティブがあります。

※収容定員8,000人以上の大学(医学部・歯学部を除く)の場合
※文部科学省「令和5年度以降の定員管理に係る私立大学等経常費補助金の取扱いについて(通知)」をもとに東京個別指導学院が作成
首都圏の主な私大の過去3年間の収容定員充足率を見ると、【表4】のように補助金不交付基準を超える大学はありませんが、補助金増額・減額対象の大学はすでにあります。2025年度の不交付基準に抵触する可能性がある大学もいくつかあり、それらの大学の2025年度入試では、正規合格者の絞り込み&追加合格者の小刻みな発表といった措置が取られる可能性があります。

※上表のうち、亜細亜大のみ収容定員4,000人以上8,000人未満。他は8,000人以上の大学。国士舘大のみ大学院を含む
※日本私立学校振興・共済事業団「大学ポートレート」学生情報(2024年12月10日確認)をもとに東京個別指導学院が作成
収容定員割れになるとどうなるか
①補助金がカットされる
では、収容定員を割り込んだ場合はどうなるのでしょうか。日本私立学校振興・共済事業団の「別表2 学部等ごとの収容定員に対する在籍学生数の割合による増減率表」*⁷で細かく定められているのですが、学部等ごとの収容定員に対する在籍学生数の割合が90%以上95%未満の場合は減額されませんが、90%未満の場合、補助金が減額されるのです。例えば、収容定員充足率80%の場合は補助金が22%カット、充足率70%の場合は32%カットされます。
その補助金について、文部科学省は「2026年度から私学助成の配分基準を見直」し、「具体的な制度設計は25年度中に進める」との報道がありました。経営難の私大に規模の縮小や統合・再編を促し、改善しない大学は(在学生への配慮策を講じたうえで)廃学もやむなしというメッセージのように思います*⁸。
*⁷日本私立学校振興・共済事業団「私立大学等経常費補助金取扱要領 私立大学等経常費補助金配分基準」
*⁸日本経済新聞2024年12月28日「経営難の私大に縮小促す 文科省、「改善なし」は助成減額」
②学生は国の修学支援制度を受けられなくなる
2020年度から国は「高等教育の修学支援新制度」*⁹を設けています。学校種(大学か、短期大学か、高等専門学校か、専門学校か)と一人暮らしか自宅からの通学かによっても金額は変わってきますが、世帯収入や資産の要件を満たしている学ぶ意欲がある学生ならば、授業料・入学金の免除または減額(授業料等減免)と、給付型奨学金の支給が受けられる制度として始まりました。この制度は、2024年度から*¹⁰中間所得世帯への対象拡充、2025年度から*¹¹多子世帯の学生等への所得制限撤廃と、対象となる学生の要件を拡大しています。
学生・保護者にはありがたい制度ですが、原則、直近3年度すべての在籍学生数が収容定員の8割未満の大学は、この制度を受けることができません。支援の対象となる大学・短大・高専・専門学校一覧は文部科学省のHP*¹²で随時更新・公表されており、支援対象校一覧*¹³(リンク先は2025年2月19日時点)に名前のない大学は支援対象外の大学となります。受験生・保護者にとっては支援対象外の大学に入学すると、支援対象大学に入学していれば受けられたはずの支援が受けられません。このため支援対象外の大学は、学生募集のうえでハンデを追うことになります。
*⁹文部科学省「学びたい気持ちを応援します 高等教育の修学支援新制度」
*¹⁰文部科学省「令和6年度からの『』高等教育の修学支援新制度の中間所得層への拡大に係る対応について(第4区分)』」
*¹¹文部科学省「令和7年度からの多子世帯の学生等に対する大学等の授業料・入学金の無償化等について」
*¹²文部科学省 支援の対象となる大学・短大・高専・専門学校一覧
*¹³文部科学省「高等教育の修学支援新制度の対象機関リスト(全機関要件確認者の公表情報とりまとめ)」
③新学部設置ができなくなる
新しい時代に求められる学問の教育を行うため、大学は学部学科の設置改廃を行います。毎年数多くの大学が認可申請をしています*¹⁴が、こちらにも収容定員充足率の基準があります。
2025年度開設の学部等の設置認可申請から、認可基準の改正により、認可の申請を行う大学等の既設学部等の収容定員充足率が5割以下の場合、その申請について認可しないとの基準が規定*¹⁵されました。そのため、入学者を増やすために魅力的な学部を設置しようにも、まず現状の収容定員充足率を上げないと、設置できなくなってしまったのです。このように、収容定員割れ大学には厳しい制約が課せられていますので、大学側は収容定員充足率を100%に近づけるように躍起になっているのです。
*¹⁴文部科学省「令和7年度開設予定大学等一覧」
*¹⁵文部科学省「大学の設置等に係る提出書類の作成の手引(令和8年度開設用)」
GMARCH以上の大学群は一般選抜が主流
前述の通り、収容定員充足率の厳格化で年内入試志向が強まりますが、【図5】の通り、目指す大学群によって、その変化のスピードは異なります。目標とする大学群ごとに見ていきましょう。
入試難易度でGMARCH以上の大学群は一部を除き、一般選抜が主流のままの状態が当面続くでしょう。2025年度の一般選抜で志願者が大きく増えたように、これらの大学群は受験生の人気もありますので、志望者が極端に減ることは、しばらくの間はないと思われます。しかし、収容定員充足率の厳格化に伴い、最も合格者数を調整しやすいのは一般選抜です。そのため、収容定員充足状況により、年度・大学・学部の難易度が上がる可能性があります。
本稿執筆時点(2025年3月13日)では、最終的な入試結果は出そろっていませんが、難関私大は正規合格者数を抑え気味にしている印象があります。最終的な収容定員充足状況は、各大学のHPで「教育情報の情報(学生に関する情報)」として公開されていますので、確認しておくとよいでしょう。そして何より、多少の難易度の変化があっても合格できる受験学力を早期からつけておくことが必要です。

日東駒専クラスは一般選抜比率が50%を割り込むか?
日東駒専クラスは近い将来、一般選抜比率が50%を割り込むように思います。2025年度入試では東洋大の年内「学校推薦入試 基礎学力テスト型」実施が大きく報道され、波紋を呼び、文科省から指導が入る事態となりました。2025年3月13日に開催された大学入学者選抜協議会において、大学団体から「総合型選抜は調査書、学校推薦型選抜は調査書及び推薦書に加えて2種類以上の評価方法(小論文、面接、実技検査等)を適切に組み合わせて丁寧に選抜を行うこととし、その評価方法の1つとして教科科目に係る基本的な知識を問うテストで基礎学力を把握することも認めて頂きたい」との提案がなされました。
今後の動向は本稿執筆時点(2025年3月)で結論は出ていませんが、「基礎学力テスト」も課す「年内入試」が継続となれば、一番影響を受けそうなのがこの大学群です。追随する大学も出てきそうです。そうなった場合には、年内入試(学校推薦型・総合型といった名称にかかわらず)の比率はさらに高まります。年内入試は、入試日の早期化を意味します。「受験勉強は高3になってから」といった、年明け入試が当たり前だった保護者世代とは受験スケジュールが異なります。
そして一般選抜を受験する場合には、収容定員が厳格化される中で、現在よりも減少が予想される合格枠を争うことになります。したがって、「みんながあまりやっていない」時期から基礎学力をつけておくことをお勧めします。
大東亜帝国以下の大学群では、総合型選抜や指定校推薦が主流
大東亜帝国以下の大学群では、すでに年内入試が主流です。大学独自の教育・研究内容に強いこだわりがあったり、内部進学を目指したりしている付属校生でなければ、早期から進路について考え、第一志望とする受験生は少ないように思います。総合型選抜による入学者の割合が大きく増えていますが、難関大の総合型選抜のような「何かに突出している」受験生を見いだす入試ではなく、面談や相談を通して受験生の適性や強みを発見して、大学で学ぶ内容をマッチングさせていく「育成型」タイプの入試が多いように思います。
中には教職員との事前面談で「君はこういったことに向いているのではないか」「あなたにはこういう長所があり、入学後にこのように活かせるのではないか」といった助言をしたり、希望者に志望理由書や小論文、課題の添削指導までしたりする大学もあります。自分の進路ややりたいことが見つからない受験生こそ、早めにいくつかの大学の事前面談を受けてみると、自己分析や進路を決める手助けになります。入試に出願しない限り、受験料はかからないのです。
また、【図5】のように、指定校推薦での入学者の増加ポイントが他大学群よりも大きいのです。「早く確実に進学先を決めたい」という受験生・保護者の割合も他大学群志望者より多いように感じますし、収容定員充足のために、大学側も確実に入学してくれる指定校推薦を重視しているからです。このため指定校の拡大・増枠・基準の引き下げ等を行っている大学も少なくありません。
その結果、「本校は生徒1人当たり17.2校分の指定校枠がある」と話してくれた高校の先生もいます。進路の選択肢が増えることはよいことですが、指定校推薦が取れるからと安易に進学先を決めるのは好ましくありません。学びたい学問と一致しているか、大学の雰囲気や立地はどうか、就職・資格取得状況などに加えて収容定員充足率もチェックしましょう。
まとめ|「収容定員充足率」が大学選びに与える影響
➀収容定員充足率は大学の教育・研究内容の良し悪しを決めるものではありませんが、高すぎても低すぎても、教育・研究内容や施設の充実に影響します。特に低い場合は国の修学支援を受けられなかったり、大学の規模が縮小されたり、さらに言えば出身大学がなくなってしまうこともあります。
➁収容定員充足率を満たしていても、年明けの一般選抜に力を入れている大学もあれば、年内入試が主体になっている大学もあります。目指す大学群によって準備の仕方が変わります。受験準備の動き出しは早めに行ったほうが有利になるのは、どの大学群でも同じです。
③収容定員充足率不足に苦しみ、指定校推薦や総合型選抜でハードルを下げている大学もあります。「苦労せずに入れそうだから」と安易に進学先を決めず、大学で何を学び、その後どうしたいのかを考えて進路選択を行いましょう。
➀~③に共通して含まれるワードが「収容定員充足率」です。だからこそ、これからの大学選びの参考指標のひとつに収容定員充足率も加えておきましょう。