小久保英一郎
写真 加藤昌人

 生命を宿す地球は、どのように誕生したのか。銀河系の広がりのなかに、同じような惑星はいくつ存在するのか――。天体望遠鏡の代わりにコンピュータを駆使し、それらを明らかにしようとしている。観測ではない、理論の天文学だが、むしろシミュレーション天文学というほうがふさわしい。惑星が集積する過程や、その衛星である月が形成される過程のシミュレーションは、今ではそれぞれの標準モデルとなり、高い学術的評価を得ている。月は46億年も昔、天体のかけらがぶつかり合い、合体しながら、わずか1ヵ月で誕生したという。

 緑豊かな仙台に生まれた。幼い日の夢は探検家。昆虫を追って野山を駆け回り、庭に寝そべり天の川と向かい合った。その途方もない美しき銀河系の不思議に引き込まれ、好奇心はそのまま、科学者になった。「惑星が生まれるシナリオ全体をつかみたい」。大学4年生の1年間で、専用コンピュータまで自作した。シミュレーションは探検と同じなのだ。

 趣味のスキューバダイビングは、インストラクターの資格を持つほどの腕前だ。大学院時代は年間100本も潜った。「海と空は補完し合っている。海には魚や珊瑚に触れる、生の体験がある」。

 今は手が届かなくとも、空の向こうにも同じように、生命が存在するのだろうか。「惑星ができれば、原始的な生命が生まれるのは必然。地球だけが特別なわけじゃない」。

(『週刊ダイヤモンド』副編集長 遠藤典子)

小久保英一郎(Eiichiro Kokubo)●理論天文学者。1968年生まれ。1997年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。日本学術振興会の特別研究員を経て、国立天文台理論研究部主任研究員。2006年より同助教授(現准教授)。著書に『1億個の地球』(共著、岩波書店)など。