尾崎豊の『17歳の地図』の歌詞みたいな。

『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』は、21世紀の『ソフィーの世界』だ【原田まりる×坪田信貴(前編)】この本は、「21世紀の『ソフィーの世界』」ですね。

坪田 キルケゴールって、最終的には神に傾倒したところがあるじゃないですか。大切だと思っていた関係性が途切れると人は不安定になって絶望し、絶望し尽くしたら死に至る…ということを言っていますが、神は絶対的な唯一の存在だから、神との関係性を築けば大丈夫、的な感じになったのかもしれないけれど。その考えをそのまま教育の現場に持ち込むのは難しいけれど、僕らは生徒さんとそんな関係性を築けたらいいなと思っているんです。何があっても、何をしても、どんな状態であっても、絶対僕らは君たちが好きだよという。そういう存在であれば、みんな気持ちが安定するんじゃないかと。

原田 それ、すばらしいですね!生徒の皆さん、とてもうれしいと思います。…そして、私も坪田先生と同じ考えで、本の中で神様のことを書いたら訳が分からなくなると思ったので、そのあたりは全部カットして哲学者の思想を中心に紹介しました。

坪田 だからこの本はわかりやすいんですよね。きっといろいろな人に広く受け入れられると思うんですよ。…そうそう、話は変わりますが、うちの会社の税理士さんが「何のために生きているのかわからない」的なことを言い続けていてね。

原田 尾崎豊の『17歳の地図』の歌詞みたいな。

坪田 まさに(笑)。この10年ぐらいずっとこの問題を考え続けているらしいんです。僕は彼のことを日本一のイケメン税理士さんだと思っているんですが、そんな彼でも悩むんだなあと。…たぶん彼こそ、哲学書を読んだらいいと思うんですよね。僕らよりも賢い人が、過去に散々そういう問題を考えてくれていて、その思想を一通り学んだら、大きなヒントを得られるんじゃないかと。そして、今までならばキルケゴールの『死に至る病』とかニーチェの『道徳の系譜』とか、それこそサルトルの『嘔吐』を嘔吐しそうになりながら読んだりするのがオーソドックスなパターンでしたが、原田さんが誰にでもわかりやすい哲学書を出してくれたから、彼みたいな人に是非読んでほしいと思いました。哲学入門書としては『ソフィーの世界』がありましたが、あれも出版されてから20年以上経って、内容が古くなっちゃっているから。

原田 本を書く前に周りにリサーチしたり大学生にインタビューしてみたりしたんですけれど、『ソフィーの世界』を読んだけど難しかったという声が結構あったんですね。だから、合間にギャグを取り入れながら面白く作りたいなと。

坪田 サルトルが焼き肉店で、トングを例にとって「本質」を語っているんですからね(笑)。でも、こんなに的確な例えはないんだよなあ。

原田 サルトルは、若い彼女がたくさんいたようなので、現代にいたら、おいしい焼肉屋さんとか絶対知っていると思ったんですよね。ガールズバーのオーナーをしているという設定もそう。女好きだということをアピールしたくて。サルトルはセルシオに乗っている設定にしようとしたら、もう廃番になっているらしくて、じゃレクサスだな、とか。

坪田 (笑)そんなこだわりがあったのですね。そういえば各キャラクターの身長や体重も設定していますもんね。そういうあたりがやっぱり「芸術家タイプ」っぽい。一見冗談のような設定に見せながら、「本当に現代の世に来たらこうなるだろう」と思わせる。だから違和感を覚えなかったんだなぁ。この本は、「21世紀の『ソフィーの世界』」ですね。

原田 そのキャッチコピー、嬉しいです!