公的機関は悩み多き存在<br />“三つの障害”が起業家精神と<br />イノベーションを退行させるダイヤモンド社刊
2100円(税込)

「最も起業家的なイノベーション志向の人たちさえ、公的機関とくに政府機関のマネジメントの座におかれるならば、その内部力学のゆえに、半年後には月給泥棒ないしは政治屋となる」(ドラッカー名著集(5)『イノベーションと企業家精神』)

 ドラッカーは、公的機関には既存の事業がイノベーションの障害となりやすい原因が3つ存在するという。

 第一に、公的機関は、成果ではなく、予算に基づいて活動する。いわば、他者の稼ぎから支払いを受ける。その予算は、活動が大きいほど大きくなる。公的機関の成功は業績ではなく、獲得した予算によって評価される。

 第二に、公的機関は、多様な利害関係者によって左右される。活動の成果が収入の原資になっていないために、あらゆる種類の関係者が実質的な拒否権を持つ。そのようななかで、すべての人たちを満足させなければならない。

 第三に、公的機関は、善を行なうために存在する。公的機関は自らの使命を道義的な絶対とし、経済的な費用効果の対象とはしない。すなわち、目標を実現できないことは、努力を倍加すべきことを意味する。

「公的機関にイノベーションや起業家精神が見られないのは、退嬰的な月給泥棒、権力マニアの政治屋の抵抗によるものとされている。だが、事態はそれほど簡単ではない。改革論者の万能薬たる人の入れ替えによる解決は、幻想にすぎない」(『イノベーションと企業家精神』)