「野菜不足」のGDPへの影響は1%未満

野菜も含めた生鮮食品の価格が、天候の影響を受けやすいのは事実だ。野菜不足による価格の高騰は、日々スーパーなどで買い物を行う人たちにとっては大きな関心事だろう。ただ、これが一国の経済全体にどれくらいのインパクトを持つかを考えてみてほしい。

2015年の日本の個人消費は年間約300兆円。そのうちに生鮮野菜が占める割合は、6兆円、つまりおよそ2%ほどである。さらにこれは、GDP全体からすれば約1%の割合でしかない。その程度の範囲内で消費が減ったとしても、GDPに及ぼす影響はマイナス0.1%ポイント未満だろう。

野菜価格の高騰は、家計への影響度が大きいし、普段からスーパーなどで買い物をしている主婦などの実感にも訴えやすい。「猛暑日が続いているため」といったロジックも、実際に肌身で猛暑を感じていると、「たしかに今年の夏は暑いからな…」などと思わず頷いてしまいそうになる。

しかし、誰にでもアクセスできるデータを見るだけでも、「天候不順により、食品の価格が高騰して消費が低迷した。だから景気が停滞しているのだ」という議論がいかにメチャクチャなものであるかは簡単にわかる。経済のごく一部を占めるだけの野菜価格の議論を経済全体の議論にすり替える経済学者、そして、それをもっともらしく報じるメディア―こうした滑稽な構図は、おそらく日本でしかお目にかかることができないのではないだろうか?

2014年夏の消費落ち込みの真相は、誰がどう見ても消費増税である。

それにもかかわらず、このようなバカげたニュースが恥ずかしげもなく報じられるのは、「消費増税のせいで景気が停滞した」と思われたくない人々がいるからなのかもしれない。「個人消費が落ち込んだのは天候不順という不可測の事態によるものであり、消費増税の影響ではない。したがって、10%への増税もスケジュールどおりに進めるべきだ」―そんな世論をつくるために流されたデマ情報なのではないか、そう勘ぐりたくなるほどである。

私たちの庶民感覚を利用し、消費増税の負の影響から目を逸らすための情報操作があるのだとしたら、それは悲しむべきことだ。そうした情報に流されないためには、一人ひとりが最低限のリテラシーを身につけるほかないだろう。