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ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一

難攻不落の三越を
ついに攻略

北 康利 [作家]
【第43回】 2017年2月8日
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下着の聖地パリ

 旅先で、幸一のもとに一通の電報が届いた。

 「5 HI PM1・35 JOSHI TANJO、 BOSHI KENZAI」

 それは出発時すでに身重の体だった良枝が、無事女の子を出産したという報せだった。

 すぐに対面できないのは残念だが、記憶に残る出来事だ。一人旅先で祝杯をあげた。

 彼女は今回の洋行にちなんで、洋子と名付けた。

 後年、洋子が物心つく年齢に成長した時、

 「名前の付け方が安易だわ」

 と言われはしたが、幸一としてはいい名前だと自画自賛していた。

 7月下旬にはアメリカから欧州へと渡ったが、ロンドンでもパリでも驚きの連続だった。

 パリでは下着小売店の多さに目を見張った。

 (10軒に1軒くらいの割合で並んどる。これじゃまるで横町の煙草屋やないか……)

 そんな印象を抱いた。

 しかも、どの店も、手縫いの美しい仕立てのブラジャーが高額で売られている。

 (……ここは、下着の聖地や)

 アメリカを見て、なんでも安価に大量生産をしないと欧米には勝てないという考え方を持つ者も業界には多かったが、幸一はこれまで大事にしてきた品質へのこだわりが決して間違ってはいなかったことを実感していた。

 “良い製品”に対しては、消費者はその対価をちゃんと払ってくれるのだ。

 それにパリという街がどことなく京都に似た雰囲気を持っていたことが、幸一にはうれしかった。

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北 康利 [作家]

きた・やすとし/昭和35年12月24日愛知県名古屋市生まれ、東京大学法学部卒業後、富士銀行入行。資産証券化の専門家として富士証券投資戦略部長、みずほ証券財務開発部長等を歴任。平成20年6月末でみずほ証券退職。本格的に作家活動に入る。“100年経営の会”顧問。松下政経塾講師。著書に『白洲次郎 占領を背負った男』(第14回山本七平賞)、『福沢諭吉 国を支えて国を頼らず』、『吉田茂ポピュリズムに背を向けて』(以上、講談社)、『陰徳を積む 銀行王・安田善次郎伝』(新潮社)、『西郷隆盛命もいらず、名もいらず』(WAC)、『松下幸之助 経営の神様とよばれた男』(PHP研究所)などがある。最新刊は『佐治敬三と開高健最強のふたり』(講談社)。


ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一

ブラジャー。この華やかな商品に一生を捧げた男がいた。戦後京都を代表するベンチャー企業「ワコール」を創業した塚本幸一である。インパール作戦の生き残りという壮絶な戦争体験を持つ彼は、いかにして女性用下着に出会い、その未開市場を開拓していったのか。ベンチャースピリット溢れるその豪快華麗な生涯を、いま最も注目される評伝作家・北康利が描きだす!

「ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一」

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