全ての生き物はオスでもメスでも恋をすることに命をかけている

「どうして、男の子と女の子がいるの?」ラジオ番組に投げかけられた子供の素朴な質問から本書は始まる。 この他愛ないが本質的な質問に専門家は困惑しながら、「X染色体とY染色体」の話を持ち出すしかなかった。一生懸命、質問者の幼稚園児に説明を試みるが、到底理解できるはずもない。

 気まずい雰囲気で終わるかと思ったその時、アシスタントのお姉さんが「○○君は、男の子だけで遊ぶのと、男の子と女の子で遊ぶのは、どちらが楽しいかな?」と問いかけると、男の子は「男の子と女の子で遊ぶほうが楽しい」と答えた。「男の子と女の子がいるほうが楽しい」 とても単純な答えだが、これこそが生物にオスとメスがいる理由なのだ。

『オスとメスはどちらが得か?』
稲垣 栄洋
祥伝社
208ページ
780円(税別)

 本書『オスとメスはどちらが得か?』は、言われてみれば誰もが疑問に思う「オスとメスがいる不思議」を生物学のトピックを織り交ぜながら、わかりやすく説明している。なぜ、生物は遺伝子の多様性を求めるのか?なぜ、生物はオスとメスの2種類に分かれたのか?なぜ、モテる個体とそうでない個体が生まれたのか?

 オスとメスをめぐる生存戦略は、限りなく奥深いテーマだ。 例えば異性の好み。生物学的には流行りに乗るのが主流と言えるだろう。何故なら生物にとってモテることと生きることは、ほぼ同義の意味を持つからだ。

 もし、流行に逆らうタイプのメスがいたらどうなるだろうか。長い尾羽が好まれる鳥の種類の中に、たまたま尾羽の短いオスが好きなメスがいて、その子孫を残したとする。尾羽の短い子供たちはメスから全くモテず、孫の代を残すことなく消えてしまうかもしれない。

 ちなみに、生存に直接有利に働くことはないのに大多数の好みによって思わぬ方向へ進化することは、ランナウェイ仮説と呼ばれている。

 人間の世界でもいろんな流行が生まれては廃れていく。今で言えば、星野源さんや綾野剛さんのような塩顔なんかもランナウェイ仮説によって突然生まれた流行ではないだろうか。シャープな目元に色白の肌は生きていくために必要不可欠なものではないはずだ。