
女優・樹木希林が悠木千帆の名で活躍していた1976年、月刊誌『婦人公論』で対談連載「心底惚れた」が開始。30代前半の希林さんが、スターたちと「男と女」の話を交わし、本音を引き出す。37歳の山城新伍は、妻への深い愛情を明かした。※本稿は、樹木希林『人生、上出来 増補版 心底惚れた』(中央公論新社)の一部を抜粋・編集したものです。
やっぱり男だから
いろんなものがたまってくるわけ
悠木千帆(後の樹木希林。以下、悠木) 奥さん(編集部注/女優・花園ひろみ)のことを、どの面をいちばん大事にしていますか。
山城新伍(以下、山城) ぼくは全部好きだし、まあきざに言えば、生まれ変わってもいまのかみさんと一緒になろうと思うしね。まるで何にもできない人なの。たとえばぼくは結婚してから、朝ごはん食べない習慣つけられちゃったの。
なぜかといったら、ワイフがめんどうくさいからつくらない。どうしてといったら、「だって、眠いんだもの」ってひとことで。「どうしてほしくないの」といったら、「だって、あたし眠いもの。あなたの体力とわたしの体力考えてごらんなさい。あなたは起きられても、わたしは貧血症だし起きられない」っていうから、あ、そうだな。
ぼくは自分で目ざましかけてソーッと出て行く。だけど、やっぱり男だから、ある日突然、ひと月ぐらいたって、いろんなものがたまってくるわけ。家庭の味、ふっと頭にかすめる瞬間があるわけ。
そうやって家に帰ると、その日も何にもなかったら、「おい、お前、たまにはつくれよ」。そういう、きょうはひょっとすると女房に言うんじゃないかという日にね、あやしげな料理ができているわけ。「クッキングカード見てこさえたんだけれどもね、食べてみてくれる?あなたの好きな京都風の味つけなの」っていうのが出ている。