米トランプ政権の混乱が続いている。一向に進まない政権高官の指名や激化する権力闘争などで、政策も腰が定まらない。そんな中、対外経済戦略は「通商法の活用」を重視したものになるかもしれないとの懸念が急速に膨らんでいる。(時事通信解説委員 軽部謙介)
遅れる体制作り、高官任用45人だけ
「経験より忠誠」重視でブラックリストも
米紙ワシントン・ポストに面白いサイトがある。
どのくらいの政府高官が議会の承認を受けたかのデータを毎日更新しているのだ。
米国の政治体制は政権交代で大きく変わる。3000~4000のポストには「政治任用者(ポリティカルアポインティー)」が座るため、オバマ政権を支えた民主党関係者は一斉に去っていった。普通の政権交代だと「待ってました」とばかりに共和党関係者が自薦他薦でこれらのポストに殺到するはずなのだが、トランプ政権は様子が違う。
ポスト紙は特に重要と思われる560の政治任用のポストについて、「指名が発表された人数」「議会で承認された人数」などの最新データを掲示している。それを見ると、6月23日現在で、議会の承認を受けて仕事を始めたのは閣僚を含めて45人だけ。396のポストは指名もされておらず空席の状態だ。
同じ時期に170人の高官が議会で承認済みだったオバマ政権に比べると、そのスピードはきわめて遅い。
なぜこんなにもゆっくりとしたペースなのか。
先月ワシントンを訪問した際、知日派の元政府高官がこう説明してくれた。
「トランプ政権にはブラックリストが存在する。一度でも大統領の悪口を言えば政権入りは難しくなる」
この人物はブッシュ(子)大統領時代に東アジア政策を取り仕切った経験があり、今回も政権入りするのではないかと見られていた。しかし、選挙期間中、共和党内で「反トランプ」の署名に加わったためリストに名前が載ってしまったのだという。
ブラックリストを作るのは、この政権が「忠誠」を重視しているからだ。