Ms.BOPチームの「新興国ソーシャルビジネス」最前線
【第2回】 2012年1月10日
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槌屋詩野 [(株)日本総合研究所 ヨーロッパ 新興国&社会的投資リサーチャー]

成長する新興国の社会インフラ事業を通じて
自社とソーシャル・ビジネスの関連を見直す 日本総合研究所ヨーロッパ新興国&社会的投資リサーチャー 槌屋詩野

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 この流れの中で社会インフラを提供する現地発起業家たちが現れ始めたことは大きな転換だった。実際、新興国のソーシャル・ビジネスに関心を持つ、欧米企業のエグゼクティブたちは、今まで長年途上国や新興国での市場開拓を指揮してきた百戦錬磨の強者たち。彼らは社会性やミッション性だけで夢を語るほど甘くない。そんな彼らを惹き付けたのはビジネスとしての価値だった。

 特に途上国や新興国の政府はつきあい方も難しく、多様なテクニックと長年の経験が必要になる。外国企業がその国と今後どうつきあっていくかを考える際、比較的つきあいやすい現地発の社会起業家たちの動きを把握すれば、社会インフラの現状と成長、そして自社にとっての好機を見逃さないようにできる、と考えるのも当然かもしれない。

 C.K.プラハラードの著書『ネクスト・マーケット』(原題ではThe Fortune at the Bottom of the Pyramid)は、経営学の大家が貧困層とのビジネスに注目をしたということで一気に有名になり、BOP書籍のバイブルのように扱われている。

 この本の中で、新興国発の革新的なビジネスモデルをもった起業家が紹介され、一躍注目の的になったのも、上のような時代的背景があった。これを機に、多くの企業が新興国の社会起業家、ソーシャル・ベンチャーへ、協働事業や投資等の形態で実利を生み出そうと殺到していく。だが、それは正しいやり方だったのだろうか?

ラストマイルは思いのほか遠い

 BOP事業をつくり出す現場では、残念ながら「Unfortune at the Bottom of the pyramid」(BOP層には富はない)と言わざるをえない瞬間が多々ある。書籍やケーススタディを読んで、夢を持って頂いた方々には申し訳ないが、事業として成り立たないものは成り立たない。

 実際に「ネクスト・マーケット」が書かれてから10年以上経ったいま、成功事例として上げられたケーススタディのうち、今もまだ「成功している」と呼べる事例はわずかだと言われている。また、ハーバードビジネスレビューで取り上げられた、多国籍企業が現地のNGOを活用した事業開発の事例も、事業拡大や規模の経済の問題に悩んでいるのが現状だ。

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槌屋詩野 [(株)日本総合研究所 ヨーロッパ 新興国&社会的投資リサーチャー]

つちや・しの/国際協力NGO勤務後、2006年東京大学大学院総合文化研究科修了、日本総合研究所創発戦略センター入社。環境事業立案、環境・社会的投資に従事後、多国籍企業の途上国におけるソーシャルビジネス研究を本格化。2009年よりイギリスに移り、世界中のプロジェクトを担当し、国際的に研究を続ける。『BOPビジネス入門―パートナーシップで世界の貧困に挑む』共著(中央経済社)他。


Ms.BOPチームの「新興国ソーシャルビジネス」最前線

日本で「ソーシャルビジネス」という言葉が紹介された当初は、海外から持ち込まれるカタカナ経営用語の一つというとらえ方をされていた。だが昨今話題になるソーシャル・ビジネスは、「地域社会やコミュニティが抱える社会的課題を解決する」という面だけではなく、「社会構造を根本的に変える」イノベーティブな発想も内包する。市場のルール自体を変えるチェンジメイカーだ。インド、中国内陸部、アフリカ、東南アジアにおけるソーシャルビジネスの最新事例を基に、日本総研の女性チームがその実体験と分析を紹介する。

「Ms.BOPチームの「新興国ソーシャルビジネス」最前線」

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