大企業の人材をアジアの新興国に送り込み、現地の課題解決を行う「留職プログラム」で知られる「クロスフィールズ」。2011年の創業以来、「働く人」と「社会」をつなぐ活動に取り組み、次世代のリーダーを数多く生み出してきたNPO法人だ。越境学習のお手本とされるなど、すでに成果を上げているクロスフィールズだが、創業10年目のいま、これまでの人づくりだけではなく、「社会課題を自分事化する人を増やす」という文化づくりをも目指すという。
いったいなぜ、クロスフィールズはビジョンを刷新してまで「人づくり」と「文化づくり」の両方にこぎ出そうとしているのか。そして、そのカギを握るというコロナ禍で生み出された新規事業「共感VR」とはいったいどういうものなのか。
越境学習の第一人者である法政大学大学院・教授の石山恒貴氏、「スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー日本版」共同発起人の井上英之氏とともに、クロスフィールズ代表・小沼大地氏、事業統括ディレクターの久米澤咲季氏が、これまでの10年を支えてきた事業「留職」「フィールドスタディ」、そして新規事業「共感VR」を分析。これからの時代の「人づくり」と「文化づくり」のポイントについて語り合った。(本レポートは2022/3/17に開催されたオンラインイベントを元に作成しています。文/クロスフィールズ 構成/廣畑達也)
「留職」を生み出したNPOが目指す「人づくり」と「文化づくり」
スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 共同発起人 / INNO-Lab International 共同代表
慶応義塾大学卒業後、ジョージワシントン大学大学院に進学。外資系コンサルティング会社を経て、2001年、NPO法人ETIC.に参画。日本初の、ソーシャルベンチャー向けプランコンテスト「STYLE」を開催するなど、若い社会起業家の育成・輩出に取り組む。2003年、社会起業むけ投資団体「ソーシャルベンチャー・パートナーズ(SVP)東京」を設立。2005年より、慶応大学SFCにて「社会起業論」などの、社会起業に関わる実務と理論を合わせた授業群を開発。「マイプロジェクト」と呼ばれるプロジェクト型の学びの手法は、全国の高校から社会人まで広がっている。2009年に世界経済フォーラム「Young Global Leader」に選出。近年は、マインドフルネスとソーシャルイノベーションを組み合わせたリーダーシップ開発に取り組む。近著論文に、「コレクティブインパクト実践論」(ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビュー、2019年2月号)。
小沼大地氏(以下、小沼):今回モデレーターを務めますクロスフィールズ代表の小沼です。僕自身は大学卒業後に青年海外協力隊としてシリアで活動し、マッキンゼーでコンサルタントとして勤務した後、2011年5月にクロスフィールズを創業しました。今回はこれまで留職やフィールドスタディ事業で取り組んできた「リーダー人材の育成」と、共感VRに代表されるような「社会課題の自分事化を広める」事業について、それぞれの観点から今後社会に生み出していきたいインパクトについて語っていきたいです。
久米澤咲季氏(以下、久米澤):同じくクロスフィールズの久米澤です。クロスフィールズには2015年に加入し、これまで留職プログラムやフィールドスタディ事業などを担当してきました。現在は事業統括ディレクターを担当しています。プログラムの現場で参加者に寄り添うなか、社会課題が自分事化される瞬間やリーダーシップの芽生えを何度も目の当たりにしてきました。
小沼:今回は「社会課題を自分事化する人と文化のつくり方」というテーマに合わせて、2名のゲストをお迎えしています。1人目は「人材育成」の観点の専門家であり、越境学習の研究をされている法政大学大学院の石山さんです。
石山恒貴氏(以下、石山):法政大学大学院の石山です。専門領域は人材育成やキャリア構築で、特に越境学習について研究をしています。越境学習にはさまざまな定義がありますが、僕は「ホームとアウェイの往還」だと捉えています。ビジネスの文脈でたとえるなら、一定期間グループ会社に出向することや働きながら社会人大学院に通う、などがイメージしやすいかもしれません。研究者の立場から見て、ここ10年でこの越境学習という概念が広まってきている実感があります。クロスフィールズの活動はまさに越境学習の取り組みを加速させたと感じています。
小沼:2人目のゲストは、これまでさまざまな形でソーシャルイノベーションに取り組んでこられている井上英之さんです。本日は「社会変革」や「文化づくり」といった観点でインプットをいただきたいと考えています。
井上英之氏(以下、井上):井上です。NPO法人ETIC.での社会起業プログラムの立ち上げや、ビジネスパーソンによる社会起業向けの投資団体「ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京(SVP東京)」の設立などを経て、現在はスタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー日本版(SSIR-J)の共同発起人を務めています。僕自身、社会課題の解決には異なるセクターの人たちが協力し合う「コレクティブインパクト」が重要だと思っていて、クロスフィールズの活動はこのコレクティブインパクトを加速させるうえでも、たくさんの可能性があると思っています。