命を落とす人、死ぬより辛い人の絶対数を減らす仕組みを作る(前編)中村多伽(なかむら・たか):taliki創業者。taliki 1号投資事業有限責任組合(通称talikiファンド)代表パートナー。写真提供:taliki

社会課題解決をビジネスとして展開する社会起業家を、人・ノウハウ・資金などあらゆる面から支援するtaliki。代表の中村多伽さんが起業の志から、社会課題解決ビジネスの意義や成長性までを論じた講演(日本生産性本部主催「軽井沢トップ・マネジメント・セミナー」)にフォロー取材を加えて、談話記事としてまとめた。前編と後編で連載する。(構成/ダイヤモンド社論説委員 大坪亮)

社会課題解決を
継続する仕組み

 私は、「社会課題の解決をビジネスにする」ことに日々取り組んでいます。「社会課題の解決」と一般の方が聞かれると、「行政やNPOが担うべきことではないか」「ビジネスにすると言っても、儲からないのではないか」と思われるかもしれません。

 しかし、実態は違います。ビジネスチャンスは結構あって、市場は成長しています。今いかに社会課題解決のビジネスが着実に根を張って伸びているかについて、これからお話していきます。

 最初に、なぜ私がこうしたことに関わるようになったか、簡単に自己紹介させてください。私は京都大学在学中にボランティアで、カンボジアに小学校を2つ建設しました。そこでいろいろと考えることがあり、その後ニューヨークに留学しました。帰国後、大学4年生時の2017年に起業し、2020年に国内最年少の女性代表としてベンチャーキャピタル立ち上げ、今日にいたっています。 

 カンボジアでの公立小学校の建設によって、それまで学校に通っていなかった子供たちが学校で学べるようになるというハッピーな話がある一方で、新たな問題にも直面しました。例えば、親の仕事を手伝わなきゃいけないので学年が上がれなかったり、教員の指導力の質が低くて進学できなかったりという児童が多くいました。1970年代のポルポト政権時代に、教育インフラが大きく破壊された影響です。小学校を建てるだけでは子供たちは十分な教育を受けられないことを痛感しました。

 自発的(ボランティア)活動の難しさは、皆さま想像にかたくないと思います。私たちは日本でクラウドファンディングやビジネスを展開して資金を作り、それをカンボジアの小学校の建設費用に充てるということをやっていたのですが、それだと一時的な対応になって、継続性が難しく、関係者が疲弊するのです。

 こうした社会課題解決のボランティア活動の持続性の難しさを痛感して、もっとちゃんと資金の動きなどを勉強しなきゃいけないと考え、米国留学を決めました。

 8年前の2016年、米国大統領選挙の時でした。ニューヨークで学校に通ってビジネスを学びながら、現地の報道局で働き、トランプ氏が大統領に選ばれる瞬間を目の当たりにしました。仕事を通して、大統領選の争点となる課題をいろいろと取材しました。

 誤射で子供を亡くした母親に銃規制について聞くとか、メキシコからの移民に国境の壁を作ることの是非を問うなどの中で、社会課題は個々の政策で簡単に解決できるものではないと感じました。政策だけで、目の前にいる悲しい思いした人たちの明日が救われるわけではないと実感したのです。

 ニューヨークにいると、世界中のニュースが入ってきます。例えばシリアでの迫害から逃れるべく乗った船が転覆し多くの幼児が溺死したことなど、悲劇のもとになる世界中の課題が国連で議論され、プレス発表されているのですが、救えない命がたくさんありました。公的な金融の仕組みなどを学んだら、もしかしたら解決策が見つかるのではないかと思っていたのですが、国連活動等の報道の仕事を経験して、そうしたマクロな活動だけでは社会課題解決は難しい、と考えました。

 今この瞬間に困ってる人や命を落としそうな人を救うためには、マクロな政治経済の活動に頼るだけでなく、私たち一人一人の力が必要だと考えるにいたって、帰国後すぐに「taliki(タリキ)」という会社をつくったのです。

 社名の由来は、「他力(本願)」です。私たちは単独で社会課題を解決しようとするでのはなく、解決しようとする人たちを増やし、彼らにビジネスのノウハウやリソースが社会から流れるように注力しています。つまり他人の力を使って継続的に社会課題を解決する仕組みで、タリキ(他力)なのです。

 タリキのミッションは「社会課題を解決する人をエンパワーする」、ビジョンは「命を落とす人、死ぬより辛い人の絶対数を減らす仕組みを作る」です。