命を落とす人、死ぬより辛い人の絶対数を減らす仕組みを作る(後編)社会課題解決ビジネスの成長性を論じるtaliki創業者の中村多伽氏。日本生産性本部主催「軽井沢トップ・マネジメント・セミナー」にて 写真提供:日本生産性本部

社会課題解決をビジネスとして展開する社会起業家を、人・ノウハウ・資金などあらゆる面から支援するtaliki。代表の中村多伽さんが起業の志から、社会課題解決ビジネスの意義や成長性までを論じた講演(日本生産性本部主催「軽井沢トップ・マネジメント・セミナー」)にフォロー取材を加えて、前編と後編の談話記事としてまとめた。前編に続いて後編では、社会課題解決ビジネスの成長性を事例をもとに詳述する。(構成/ダイヤモンド社 論説委員 大坪 亮)

「リハビリを、アソビに」で
潜在市場を広くする社会起業家

 talikiファンドは、投資方針をホームページの冒頭に明示しています(https://taliki.vc/)。すなわち、「社会課題領域に対して『解決しなくてはいけない』とアクションを強要するのではなく、ステークホルダーが経済的に成長するような仕組みや、消費者が『素敵だから購入する』と思えるようなサービスを開発し提供することで課題解決を行う企業に出資します」という方針です。

 出資した事例を一つ紹介しましょう。デジリハ(https://www.digireha.com/)です。重度障がい児向けのリハビリツールを開発し、施設に導入している会社です。製品・サービスの特徴は、デジタルアートとセンサーを併用して、遊びながらリハビリしていくところにあります。

 重度障がいを持つ子どもは、リハビリをしないと、力が衰えていってしまいます。例えば、手を動かすことでコミュニケーションをとる子どもは、継続的に手の動きをリハビリしないと力が衰退して、意思表示ができなくなってしまうのです。

 デジリハが提供する一つのゲームでは、その子が手を握ったり開いたりすると、その動きをセンサーが感知して、目の前に置いた画面の中のクジラが動くといったもので、楽しくリハビリを続けていくのです。障がい特性に応じて、いくつものゲームが用意されています。全国各地のリハビリテーション施設や特別支援学校で導入されています。

 一見ビジネスとして拡大するのが難しそうな領域ですが、そんなことはないんです。ポイントは、社会課題解決に対する同社の考え方にあります。

 重度障がい児に向けたリハビリを楽にしますというコンセプトで売ると、たぶんそこ止まりなんですけど、同社のビジョン「リハビリを、アソビに」の背景には、「障がいを持っているということで動けない、働けないと判断されているような方々が、自由に活躍できる世の中を作る」という考えがあるのです。

 同社ホームページには、「障がい児者がリハビリテーションを受けている時間は一生のうちでわずか。ライフステージにあったサービスをシームレスに提供することで、幼少期のリハビリテーション場面から蓄積されたデータを長期間に渡り活用することが可能です。学校での学びの機会や、就労場面での経済的社会参加を促進することで、障がい児者のニーズによりフィットさせていきます」とあります。

 つまり、ビジネスは重度障がい児から入っていますが、それにとどまらず高齢者や要介護の方、さらに24億人いると言われるグローバルで障がいを持っている方を視野に入れています。しかも、重度障がい児向けのゲームということもあり、ほとんど言葉を使わずにできるので、実はグローバルに展開する上での言語の壁が低い。潜在市場が大きく、高い成長性が見込めるのです。 

 では、それをどう具現化するか。私たちには、手法としてロジックモデルがあります。このモデルでは、「どんなビジョンを達成したいか」から始まり、「その目標達成に向けてどんな手段があるか、その手段では顧客がどんな行動をするか、その顧客行動でどんな波及効果が世界にあるのか」などを、時系列で検討していきます。

 現時点でのゴールは、「世界に届け、世界中の体の不自由な方々全員が活躍できるようになる」になります。途中のプロセスで、リハビリに関するデータを全て集めて、新しい最適なリハビリの基準を作り、それをグローバルスタンダードとするなどと、具体的にロジックを詰めていきます。

 そうすると、事業としてのスコープもかなり広くなり、事業計画にも大きな影響が出てきます。そのデータ蓄積は今どのくらい進んでいるかなどを、KPIとして計測して確実に進めています。