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任天堂はなぜソーシャルゲームをやらないのか(下)
ユーザーに自己効力感を促す制作方針の気骨と強み

石島照代 [ジャーナリスト]
【第25回】 2012年1月10日
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 またある業界人は、「任天堂の体質から考えて、ソーシャルゲームはそもそもやりたくないと思いますよ」と話す。

 「ソーシャルゲームは、製造業(ゲーム制作)とサービス業(アイテム課金により優位にゲームを進めるなどのサービス)のハイブリッドモデルになっており、ユーザーと対面になるサービス部門がプロジェクトを指揮するコンテンツサービスです。つまり、ビジネスをリードしているのは、ゲーム制作部門ではない。

 一方、任天堂は、ゲームの品質が良くなければものは売れないというポリシーのゲーム会社です。ゲーム制作部門がサービス開発部門(下流)の受動的な開発を行なう、つまり製造業がサービス業の下請をするようなビジネスモデルの事業は、たとえハード事業がなかったとしても、やりたくないでしょうね」

ゲームに人生を重ねる専務がいる任天堂に、
自尊感情補完ビジネスはやれないのでは?

 最後に、「任天堂がゲームを通じて提供しているものや、ユーザーが任天堂に期待するものが違うので、仮にやりたくてもソーシャルゲームビジネスはやれない」という答えを出すに至った、宮本専務にまつわるエピソードを紹介して、稿を締めたい。

 2009年に発売され、世界中で1600万本売れた任天堂のゲーム『NewスーパーマリオブラザースWii』は、8回間違えるとお手本がゲームを進めてくれるシステムになっている。実は、筆者は現在に至るまで一度もマリオのエンディングを見たことがないので、このソフトなら初めてエンディングが見られるかもしれないと色めき立った。

 ところが、8回間違え続けるのも結構大変で、自己効力感など持つまでに至らない。結局、ステージ2-6で挫折した。そこで取材時、くやしまぎれに「8回は多いのでは?」と、「世界のミヤモト」に恐れ多くもモノ申してしまったのだった。

 宮本専務の答えは、次の通りだった。

 「そのときそのとき、苦労するのが人生の楽しみでしょう? カンオケに入るときに『オレはこれだけ楽をして生きた!』と思うんじゃ虚しいと思いませんか。だいたい、任天堂だけとそんなに長く人生付き合ってられないという人の方が多いでしょうけど、石島さんくらいはとことんマリオとつきあってくださいよ」

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石島照代
[ジャーナリスト]

1972年生まれ。早稲田大学教育学部教育心理学専修を経て、東京大学大学院教育学研究科修士課程在籍中。1999年からゲーム業界ウォッチャーとしての活動を始める。著書に『ゲーム業界の歩き方』(ダイヤモンド社刊)。「コンテンツの配信元もユーザーも、社会的にサステナブルである方法」を検討するために、ゲーム業界サイドだけでなく、ユーザー育成に関わる、教育と社会的養護(児童福祉)の視点からの取材も行う。Photo by 岡村夏林

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ゲームソフトをゲーム専用機だけで遊ぶ時代は終わった。ゲーム機を飛び出し、“コンテンツ”のひとつとしてゲームソフトがあらゆる端末で活躍する時代の、デジタルエンターテインメントコンテンツビジネスの行方を追う。

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