Sonyのゲーム機「PlayStation VR」の登場などで、一般の消費者にもバーチャルリアリティ(VR)の世界が身近になってきた。若い世代では初めてVRの世界を体験する人も多く、2016年は「VR元年」と称された。しかし専門家に言わせれば、VRは現在“二巡目のブーム”だという。前後編の2回にわたり、VR研究の第一人者である東京大学大学院情報理工学系研究科 廣瀬通孝教授に話を聞いた。前編では、まずは現在に至るVR技術の発展・実用化の歴史、そしてVR活用のポイントを探る。

廣瀬通孝
東京大学大学院情報理工学系研究科教授 工学博士

1954年鎌倉市生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。同大学工学部講師、助教授、先端科学技術研究センター教授などを歴任。1995年東京テクノフォーラム・ゴールドメダル賞受賞、2004年共著『シミュレーションの思想』で大川出版賞受賞。機械力学、制御工学、システム工学が専門で、バーチャル・リアリティの先駆的研究者として知られる。

 VR技術の発祥は、1989年米国・西海岸のベンチャー企業VPL社に遡ります。現在のVR機器の原型とも言える、頭部に装着するディスプレイ装置「HMD(ヘッド・マウンテッド・ディスプレイ)」と「データグローブ」と呼ばれる手袋状デバイスが開発されました。これによって目の前に360度見渡せる立体映像の世界が現れ、「物体を掴む」など自分の手の動きをコンピュータに伝えることができるようになりました。

 しかし当時のHMDの解像度は100×150pixelと著しく低く、それでいて価格が300万~400万円という代物でした。現在では、ハイビジョンレベルのHMDでも数万円で手に入るようになりましたから、コスト感は比較にならないほど様変わりしました。

 その後、「ヘッドトラッキング機能」「全天周カメラ」「ネットワーク環境」など、VRにとって必須とも言える周辺技術がコストダウンとコンパクト化の両方の意味で洗練されていきました。

 実は、Sony「PlayStation VR」もHMDとしては同社製品の2代目に当たります。Sonyが最初にHMDを売り出したのは1996年の「Glasstron」で、これにはHMDの本質とも言うべきヘッドトラッキング機能がついていませんでした。大画面ディスプレイというふれ込みで売り出したのです。当時はヘッドトラッキング技術が極めて特殊かつ高価な技術だったからでしょう。

 全天周カメラも、かつてはユーザーが自作していたのですが、今では数万円で入手可能になりました。しかも自撮り棒に取り付けられるほどコンパクトな製品も出ています。さらにネットワークの進化で、VR環境構築に欠かせない画像や映像は、インターネットなどから容易に入手できるようになりました。

 つまり、コストダウンとコンパクト化でVRの実用化のハードルは極端に下がったわけです。アイデアさえあれば、さまざまな可能性が開くという意味で、二巡目のVRブームでは過去より大きく飛躍しました。