クローン猿誕生で真に危惧すべきは「人間複製」への応用ではない中国の研究チームがクローン猿を誕生させることに成功した。「クローン人間」への応用など、倫理問題に関する議論が再燃しそうだが、危惧すべきはそこではない 提供:Chinese Academy of Sciences/China Daily/ロイター/アフロ

クローン猿誕生の衝撃
「5つの倫理問題」を考える

 1月24日付のアメリカの科学誌『セル』に、中国の研究チームが猿の体細胞を利用して、遺伝的に同じ情報を持つクローンを2匹誕生させることに成功したという論文が発表された。東南アジアに生息する身長50センチほどのカニクイザルという霊長類のクローンベイビーが、誕生したのである。

 これまで、ウニやカエルの研究に始まり、様々なクローンの実験が行われてきた。哺乳類としては、1996年にクローン羊のドリーが誕生。その後、科学者たちは同じ方法を用いて、牛や犬など20種類以上の動物のクローンを誕生させてきた。しかし、霊長類のクローンが誕生したのはこれが初めてだという。

 さて、クローンの研究が進むたびに投げかけられる倫理問題。クローン研究の何が、なぜ問題なのか。この点についてのガイドラインは関係者向けにつくられており、一般人にはややわかりにくいことも多い。そこで今回は、ナナメな視点から、もう少し踏み込んで、クローン研究の課題について考えてみたい。

 クローン研究に関する問題は、大きく5つに分けて捉えることができる。

(1)そもそも神ではなく人間が遺伝子を操作することが問題だという話

(2)クローン人間まではつくってはいけないという話

(3)受精卵などの胚性幹細胞(はいせいかんさいぼう)を利用して研究をすることに対する倫理的問題

(4)霊長類を利用して研究することに対する動物虐待の観点からの問題

(5)人間のクローン臓器について議論し尽くされていない新しい問題

 先に話の行先を示しておくと、今回のクローン猿については、上記(5)についての問題が新たに提起される局面に入りそうなのだが、まずは順を追って説明を試みたい。

 第一に、そもそも人間が遺伝子を操作することが問題だというのは、宗教的な観点の意見であり、特に宗教指導者が強い影響を持つ宗教団体や国の中で、遺伝子操作の研究自体が禁忌とされている例はある。ただし、日本、アメリカ、そして今回の研究が行われた中国では、少なくともその視点では遺伝子操作の研究自体が禁忌すべきことだとは考えられてはいない。