塩分の過剰摂取が血圧の上昇をもたらすのは科学的に証明されている。疑義を挟む余地はない。日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン(2009)による1日の食塩摂取基準は6グラム未満で、「本来はもっと少なくするべき」(循環器専門医)という意見が多い。実際の日本人男性の塩分摂取量は11グラムを超えている。40~70歳男性の6割以上が高血圧という現実もあって、同学会では厚生労働省に減塩の促進を働きかけている。

 一方、減塩が高血圧を主要因とする心筋梗塞などの「心血管病」の発症を予防する効果があるか、という点については長らく論争が続いている。というのも血圧とは違い、確実な証拠が見当たらないからだ。血圧を下げるからには「心血管病も予防するはず」との推測が半ば常識化していたのである。ところが、だ。

 昨年秋口来、相次いで減塩の効果を否定する調査研究が発表された。なかでも11月に米国から発表された約3万人の被験者を4年間追跡した試験では、「食塩の過剰摂取はもちろん、不足し過ぎても心血管病を引き起こす“Jカーブ現象”が示された」のである。

 つまり、減塩により心血管病の発症率は減少するが、ある線を越えると、今度は逆に発症率が上昇するというのだ。