新たなテクノロジーはビジネス環境を日々大きく変容させているが、筆者らによると、今後5~10年の間に、人がサプライチェーン・マネジメントを行う時代は終わりを迎えるという。ロボティクスやアナリティクスから成る「デジタルの管制塔」が、サプライチェーンを自動で動かす未来とは。


 サプライチェーンは、企業のオペレーションの心臓部だ。マネジャーは、最善の決定を下すためには、自社のサプライチェーンに関するリアルタイムのデータにアクセスする必要がある。だが、旧世代の技術の限界により、末端から末端までの透明性という目標を果たせない場合がある。

 しかし、そのような日々は、じきに過去のものとなるだろう。新たなデジタル技術が、サプライチェーン・マネジメント(SCM)をまるごと引き受ける可能性を秘めており、従来のやり方に破壊的変化をもたらしつつある。あと5~10年もすると、サプライチェーン管理という職能は廃れるものと思われる。それに取って代わるのは、円滑に稼働する自己制御型の機能であり、末端から末端までのワークフローを最適に管理し、人間の介入をほとんど必要としない。

 企業は、デジタル技術を基盤とすることで、リアルタイムの高品質なデータの保存、分析、統合、容易なアクセス、解釈ができるようになる。このようなデータは、業務プロセスの自動化、予測的アナリティクス、人工知能、ロボティクスといった、じきにサプライチェーン・マネジメントを引き受けることになる技術を活気づけるだろう。

 先駆的な企業はすでに、可能性を模索している。

 その多くはロボティクスや人工知能を利用して、購買、請求、買掛金の処理、顧客サービスの一部などの、労働集約的で反復的な仕事やプロセスを、デジタル化・自動化している。

 予測的アナリティクスは、企業が需要の予測を向上させるのに役立っている。これにより、変動性の抑制や適切な対処、資産活用の増加、適度なコストで顧客に利便性を提供することなどができる。

 一部の製造企業は、機械の使用状況とメンテナンスを検知するセンサーのデータのおかげで、機械がいつ故障するかをより的確に推定できており、機械の停止時間を最低限に抑えられている。

 ブロックチェーンは、柔軟な供給ネットワークにおける企業間の協働のあり方に、革命を起こし始めている。

 ロボットは、小売業界で倉庫と発送センターにおいて、生産性と利益率を高めている。配達用ドローンや自動運転車が普及する日は、そう遠くない。

 世界的な鉱業・資源会社のリオ・ティントは、鉱山から港まで輸送するオペレーションを、デジタル技術でいかに自動化できるか模索中だ。同社は、無人電車、ロボット・オペレーター、カメラ、レーザー、追跡センサーを利用することで、サプライチェーン全体を遠隔操作で管理できるようになるだろう。同時に、安全性を向上させ、人里離れた場所で人間が働く必要性を減らすこともできる。

 このような企業の多くが模索している主要なコンセプトは、「デジタルの管制塔」だ。グローバルなサプライチェーンにおいて、リアルタイムに末端から末端まで見通せる、バーチャルな意思決定センターである。

 大手小売企業の一部では、このような管制塔はオペレーションの中枢となっている。典型的な「塔」は、実際には物理的な部屋で、データ・アナリストのチームがフルタイム・年中無休で常駐し、壁いっぱいに広がる高解像度の画面を監視している。画面は、サプライチェーン上の発注から配達までのあらゆる段階について、リアルタイムの情報と3Dグラフを映し出す。ビジュアルの警報が、在庫の不足やプロセスの障害を未然に警告してくれるので、現場のチームは、潜在的な問題が現実のものとなる前に素早く軌道修正できる。

 リアルタイムのデータ、疑う余地のない正確性、絶え間ない顧客重視、プロセスの卓越性、アナリティクス班のリーダーシップが、このような小売オペレーションの管制塔を下支えしているのだ。

 工業系の企業も、「デジタルの管制塔」のコンセプトを採用している。あるメーカーでは、複雑なネットワークによって、1日に100万個以上もの部品が動かされている。同社の管制塔は、供給上の潜在的な問題が発生すると、警告を発し、問題の影響を計算する。そして、事前に決められた対処法を用いて問題を自動的に修正するか、あるいは、エスカレーション(上位者に問題解決への関与を仰ぐこと)担当チームに注意喚起してくれる。

 同様に、ある鉄鋼会社では、独自の供給計画立案ツールを管制塔のプラットフォームに組み込むことで、サプライチェーンの反応性と回復力を高めている。このツールは、想定外の重大な装置の故障、いわゆる「大打撃」が事業にどのような影響を及ぼすかをシミュレーションし、最善のリスク軽減策を示してくれる。