「18歳未満の少年少女にコンドームを売ってはならない」

 全国で唯一、未成年への避妊具販売を禁じている長崎県で、この条例の存廃をめぐって審議会が紛糾している。

 コンドーム販売を禁じているのは、少年保護育成条例。第9条第2項目に「少年への避妊用具の販売等を制限する」として、「避妊用品を販売することを業とする者は、避妊用品を少年に販売し、また贈与しないよう努めるものとする」と定められている。

 あくまで罰則のない努力規定ではあるが、県によれば「未成年がこっそり買えないようにコンドームの自販機は屋内への設置が義務づけられ、またドラッグストアやコンビニなどでは、未成年の疑いがある場合には身分証の提示を求めるように指導している。市町村単位で少年補導員が巡回し、違法な自販機や販売方法がないかもチェックしている」という。

 そもそも、未成年への避妊具販売禁止は1978年の条例改正時に盛り込まれたもので、当時は自販機による有害図書販売が問題視されており、未成年を取り巻く環境見直しの一貫として定められたという。

 だが、それから30年あまり。明らかに条例は時代遅れのものとなってしまっている。日本性教育協会の調査では、男子高校生の性交体験率は26.6%、同じく女子高校生のそれは30.0%にまで高まっている。また、クラミジアやHIVなどの性感染症も社会問題化しており、その予防のためにもコンドームは不可欠だ。

 実際、長崎県でも、日本産婦人科医会長崎県支部などの医療関係団体から2005年、08年、09年と三度にわたって規制撤廃を求める要望が出され、何度も少年保護育成審議会で議論が続けられてきた。

 ところが、審議会は賛否両論でまったくまとまらない。望まない妊娠や性感染症予防を訴える規制反対派、性的非行や未成年の性交を助長してはならないとする規制賛成派の議論は「平行線をたどり、妥協点はまったく見いだせない」と審議会関係者は打ち明ける。

 さる2月に行われた審議会でも結論は出ず、審議委員の2年の任期満了で閉会となった。春に委員を公募して夏ぐらいから再度議論を始めるというから、結論が出るのはいつになることやら、である。

 当然と言えば当然だが、条例はすでに有名無実化している。大手コンドームメーカーによれば、「長崎県だけコンドームの売れ行きが悪いというデータはない」。九州の大手ドラッグストアは「そんな条例があるんですか。店長に確認しましたが、『販売の指導なんか受けたことがない』と言ってます」と驚く。「コンドームを買ったお客さんに身分証を見せてくださいなんて言えませんよ」と大手コンビニ関係者は苦笑する。

 ちなみに、この条例を担当しているのは子供みらい課だが、同じ長崎県の医療政策課では、高校生にエイズ感染予防を啓蒙する活動を行ったところ、コンドームを使う生徒が7~9%も増加したという調査結果を03年に誇らしく発表している。この調査によれば、男子高校生の26.4%に性交経験があり、コンドームを毎回使用している生徒は30.8%だった。同じ県庁内で「コンドームを売ってはいけない」という課があり、「コンドーム装着を奨励する」課があるのだから何をかいわんやだ。

 それでも、小田原評定は続く。平和といえば平和な話なのかもしれない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 小出康成)