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香山リカの「ほどほど論」のススメ
【第33回】 2012年6月18日
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香山リカ [精神科医、立教大学現代心理学部教授]

香山リカと「カネ」の話をしよう1

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「おカネはたくさんあったほうがいいでしょう」に反論できない!?

 日本でも最近、似たような価値観が浸透しているように感じます。

 たとえば、金融庁などの後押しによる「金融教育」。私自身も、子ども向けのシンポジウムに数回呼ばれたことがあります。

 その内容は、自分が生きていくのにいくらかかるのかを計算したり、擬似株式会社を作ってゲームをしたりするというもの。こうして、コスト意識や経済感覚を磨けば、「社会の動きに敏感な人間になれる!」というのが謳い文句です。こうしてポジティブな効果ばかりが強調される「金融教育」ですが、副作用はないのでしょうか。

 もちろん、おカネはなくてはならないものです。けれど、たくさんあればそれでいいのでしょうか。先の金融危機はやみくもに「利益の最大化」に走ったばかりに引き起こされたのではなかったか。ならば、利益や経済全体を右肩上がりに成長させることを至上命題にして本当にいいのか。そうした疑問が次々に湧いてきます。

 私たちは、これまで当然だと思ってきたその前提を問い直したほうがいいのかもしれません。

 行動経済学という学問があります。人間の経済行動を心理学的観点から考えるものです。たとえば、ヒトは目先の利益に目を奪われて儲からない選択肢を選んでしまうことがある、というふうに消費や投資に見られる判断のバイアス(偏り)を解明していくのです。

 以前、そのシンポジウムに呼ばれた際に、前からずっと疑問に思っていたことをずばりぶつけてみました。

 「『ヒトは儲けたい』という前提がそもそもおかしいと思うのですが……」

 私のこのきわめて素朴な質問に返ってきた回答は次のようなものでした。

 「でも、やっぱり、おカネはたくさんあったほうがいいでしょう?」

 「え、そんなことないですけど……」と言い返そうとして、私は口から出かかった言葉を飲み込みました。というのも、周囲の先生たちはみんな、うんうんとうなずくばかりだったからです。

 疑問を差し挟む余地はいっさいなし、といったその雰囲気に私はうすら寒いものを感じずにはいられませんでした。「おカネはたくさんあったほうがいいでしょう?」。その問いかけに誰も反論できない社会は、やはりどこか間違っているのではないでしょうか。

 本当にクリエイティブなものは、結構、おカネにはならない「ムダなこと」から生まれてくるのではないでしょうか。幸か不幸かおカネに疎い人生を歩んできた私は、ついそんなふうに思ってしまうのですが……。

 編集者のSさんはまだまだ私から「カネの話」を引き出したいようなので、このテーマはしばらく続けていきたいと思います。

 

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    香山リカ [精神科医、立教大学現代心理学部教授]

    1960年北海道札幌市生まれ。東京医科大学卒業。豊富な臨床経験を生かし、現代人の心の問題のほか、政治・社会評論、サブカルチャー批評など幅広いジャンルで活躍する。著書に『しがみつかない生き方』『親子という病』など多数。


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