量子コンピューターは
これから冬の時代に突入?

グーグルのサンダル・ピチャイCEO(左)の隣に立つのが、量子コンピューターのキーパーソン、米カリフォルニア大学サンタバーバラ校のジョン・マルティニス教授グーグルのサンダー・ピチャイCEO(左)の隣に立つのが、量子コンピューターのキーパーソン、米カリフォルニア大学サンタバーバラ校のジョン・マルティニス教授 Photo:Google

山城 量子コンピューター研究者にとっては、やりがいのある数年になるでしょうね。何がどこまでできそうか、ほんのりと見えてきたわけですから。

 でも僕は、産業的にはこれから「量子コンピューターの冬」がやってくると思っています。

――こんなに大きな成果が出たのに冬の時代ですか。

山城 量子コンピューターへの産業界への期待は、グーグルが成果を発表した今がピーク。量子超越性が実現したのか、じゃあ産業界でもあんなことやこんなことができるんじゃないか。そんな期待が今最大化しているわけです。

 でも量子超越性っていうのはあくまで研究上の成果です。楊君が言うような変化は確かにあるだろうけれど、幅広い産業で量子コンピューターを使うにはまだまだ時間がかかります。そういう中で、「何もできないじゃないか」と失望する企業がいくつも出てくると思います。

――人工知能(AI)も冬の時代を経て今に至っていますものね。

 量子コンピューターを開発する企業も、利用する企業も、今後二分されていくでしょうね。経営層が量子コンピューターの現状と可能性を正しく理解して、しっかり投資を続けられるか。または「スパコンより速くて何でもできるんでしょう?」と誤解して一時的に投資してみたものの、「何も成果がない」と言って短期で撤退するか。

山城 そして多くの企業が失望した数年後に、産業で使う上ですごく重要な量子コンピューターのアルゴリズムがぽこっと出てくる。僕はそう予想しています。その時に日本の企業や研究機関がどれだけ残っているか。

 ぜひ覚えておいてほしいのは、量子コンピューターの種となる研究成果が実は日本から生まれていることです。

 今回、グーグルで成果を出した研究者は米カリフォルニア大学サンタバーバラ校のジョン・マルティニス教授。量子コンピューターがノーベル賞を取るとしたら彼が間違いなく受賞者の1人です。そして同時に受賞すると目されているのが、東京大学の中村泰信教授。NECの研究所にいた1999年に、量子コンピューターの基本的な回路である「超伝導量子ビット」を開発しました。日本人は本来、理論物理学のような基礎研究で非常に強みがあります。これから始まる量子コンピューターの産業化でも、簡単に諦めずに存在感を示してほしいですね。

(注)今回の記事で指す量子コンピューターは、「ゲート方式」であり、「量子アニーリング方式」には必ずしもあてはまりません。