分割民営化から35年たつが
終わらない国鉄改革

 しかし、分割民営化から35年が経過し、各社の経営状況に大きな格差が生じている現状を踏まえると、新幹線保有機構ほどの規模でなくとも、一定の内部補助スキームは必要だったのではないだろうか。完全民営化が達成された今となっては、新幹線などの利益を他社に付け替える仕組みの導入は不可能だ。

 ただ注意しなくてはならないのが、新幹線保有機構とは本州三社の内部補助であり、より経営が厳しい三島会社(JR北海道、JR四国、JR九州)とは無関係だったことだ。不動産事業を新たな収益源として完全民営化を達成したJR九州はともかく、JR北海道とJR四国は経営再建の途上にある。分割後のビジョンはあったのだろうか。

 有り体に言えば、葛西氏は三島会社の民営化は「失敗」したと考えていた。「国鉄を分割民営化するためには、多数の法律を成立させなければならず、そのためには、立案に際して国会審議を意識したさまざまな妥協を織り込まざるを得なかった」と述べた上で、次のように指摘した。

「例えば、北海道や九州においても赤字ローカル線の廃止は行わないとされていたし、各会社が営業する路線の需要特性を反映した運賃の導入、地域の物価水準を反映した賃金設定など、分割に伴う地域特性の繁栄は、国会審議を意識していっさい織り込まれなかった」

「JR北海道は輸送密度が少ないから、当然、一人当たりの輸送コストは高くなる。したがって、運賃は高くすべきだ。住宅費や食費も含めた生活費は地価や物価を反映して、東京よりもずっと低い。したがって、賃金は地場の水準並みに下げるべきだ。極端に輸送密度の少ない路線は果断に廃止して、自動車輸送に委ねるべきだ」

「しかし、政治的には論外のことであった。それを言えば分割民営化は野党のみならず与党の賛同すら得られなかっただろう。だから、それらの代償措置として、経営の苦しい北海道・四国・九州のいわゆるJR三島会社に対しては、いっさいの過去債務負担を免除した上に、総額で1.3兆円の経営安定基金を与え、その運用利益で収入不足分を補うこととしたのである」

 葛西氏の見解が妥当かは別として、三島会社がたどる道は、政治的な妥協として経営安定基金(JR北海道6822億円、JR四国2082億円、JR九州3877億円。なおJR九州は2016年に取り崩し)を高金利で運用して赤字を埋めるという持続性に乏しい経営スキームを受け入れるか、民営化精神の名の下に運賃値上げや不採算路線の廃止を受け入れるしかなかったということになる。