ロシアの脅威は幻想にすぎない
日本が真に警戒すべきは中国だ

 要するに、「大国ロシア」とは「幻想」にすぎない(第297回)。ロシアへのウクライナ侵攻をボクシングに例えるならば、リング上で攻め込まれ、ロープ際まで追い込まれてダウン寸前のボクサーが、かろうじて繰り出したジャブのようなものなのだ。

 こうした要因により、欧米諸国の関心はロシアから離れ、中国との真の「新冷戦」に向かっている。幻想にすぎない「大国ロシア」と違い、中国との対立は多岐にわたっており、リアリティーのある危機であるからだ。

 台湾を巡る軋轢(あつれき)の他にも、中国による「東シナ海や南シナ海における力による一方的な現状変更の動き」「知的財産権の侵害など経済安全保障の問題」「新疆ウイグル自治区や香港などでの人権侵害」などを欧米側は厳しく批判し、対立している。

 なにより問題なのは、中国を中心とする権威主義体制は世界中に広がり、自由民主主義に対抗する勢力になりつつあることだ。

 特に中国は、新型コロナウイルス感染拡大への対応について、自国のトップダウンによる意思決定の早さを「権威主義の優位性」と誇り、世界中の権威主義体制や軍事政権の指導者がそれを支持するようになった(第263回)。

 また、アフリカ諸国や南米諸国など、中国から支援を受けて経済的な結び付きを強めることで、中国を支持する国家も増えている(第267回)。

 これに対して、米国は、日米同盟など二国間関係に加えて「主要7カ国首脳会議(G7)」「日米豪印戦略対話(クアッド)」「米英豪の安全保障パートナーシップ(AUKUS)」など、さまざまな戦略性のある多国間の枠組みを強化。重層的な「対中国包囲網」を築くことで対抗しようとしている。

 日本は、これらのさまざまな枠組みの中で、米国をサポートする役割があるのはいうまでもない。地政学上、日本が「新冷戦」の最前線に位置しているからだ。

 尖閣諸島侵攻の懸念といった軍事面の安全保障のみならず、半導体、電気自動車、人工知能、量子コンピューターの開発といった経済面の安全保障においても、日本にとって中国は大きな脅威である(第306回・p5)。

 ペロシ議長の訪台は、北東アジアで「新冷戦」が本格化する狼煙(のろし)となった可能性がある。日本には、その戦いに身を投じる覚悟が求められている。