2020年最後の論考として、1年間の国際関係を総括したい。大きな変化があった中国、そして米国抜きにして今の国際関係は語れない。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
中国は、政治経済体制の優位性を世界にアピール
2020年、国際社会の最大の論点は、次の「覇権国家」の座を狙う中国が、その権威主義的な政治体制を、自由民主主義体制よりも優れた「世界の政治経済体制のモデル」と強くアピールするようになったことだと思う(本連載第249回)。
中国は2020年、新型コロナウイルス感染症対策を「中国モデル」の宣伝に利用しようとした。中国は、新型コロナの感染拡大が最初に起こった国だった。だが、徹底した都市封鎖によって、3月に中国国内で発生した新規感染例が「ゼロ」だったと発表し、国内での新型コロナの拡散は終息したと、事実上宣言した最初の国となった(第236回)。
その後、中国は1人でも感染者が見つかれば即、隔離というような徹底した予防策によって感染拡大を防いだ。一方、世界中の多くの国が「第2波」「第3波」に襲われることに対して、中国は批判を強めた。
中国共産党系のメディア「環球時報」は、欧米の新型コロナへの対応の甘さを「欧米は日常生活を維持したいという国民の希望を退けることができず、国家総動員の体制を築くことができなかった、甘い対応によって、手遅れになってしまったことを反省すべきだ」などと訴えた。
中国は、新型コロナに対する「勝利者」だと宣言した。そして、2020年6月の「香港国家安全維持法」の施行により、香港民主化運動に対する「弾圧」を強化するなど、強権的な姿勢を隠さなくなった(第250回)。中国は、自国の政治経済体制の優位性をますます世界にアピールするようになったのだ。
しかし、中国の権威主義的な政治経済体制のモデルが、その優位性を世界に示したことは、実は一度もない。なぜなら、中国が急激経済成長・軍事的な拡大を実現し、米国の「覇権国家」の座を脅かすほどになったのは、権威主義が有効に機能したからではないからだ。