中国では習近平国家主席の
「独裁体制」が完成

 自由民主主義体制では、国民がオープンな情報を通じて指導者の間違いを知ることができる。それは、国民が選挙でこの指導者を選んだことに対する誤りを知ることでもある。そして、選挙を通じて政治をやり直すことができる。英国の頻繁な首相交代は、この自由民主主義体制だけが持つメリットなのである。

 一方、英国でスナク新首相が誕生したのとほぼ同時期に、まるで「皇帝」になったかのように自らの権力を強大化した世界の指導者がいる。中国の習近平国家主席である。

 中国共産党も10月下旬に、第20期中央委員会第1回全体会議を開催し、党最高指導部人事を決定。2期10年にわたって国家主席を務めてきた習近平氏が、さらに3期目を務めることが決まった。

 習氏は69歳であり、「党大会の年に68歳以上なら引退」という慣例を破ったものであった。習氏の権威をいっそう高める文言を盛り込む、党規約の改正も行った。

 最高指導部である政治局常務委員の人事では、習氏の側近が抜てきれた。首相に就任する李強氏は、かつて上海市のトップを務めた人物だ。新型コロナウイルス対策による封鎖で上海市が混乱に陥った際、住民から直接面罵される動画が出回ったこともある。

 党中央書記処書記に就任する蔡奇氏も、かつて北京市のトップだった。この人物も、かつて北京市で違法建築物の摘発に伴う強制的な立ち退き措置を行い、住民の批判を呼んだことがある。

 いずれも、国民からは政策や能力が疑問視されてきたが、習氏への忠実度で選ばれたとみられる。

 一方、習氏と距離があるとされた李克強首相らは退任した。次期首相候補ともいわれていた胡春華副首相は、政治局常務委員にも選ばれず、序列上位24人の政治局員からも外れて降格した。「習派」以外を徹底的に排除する人事となった。

 政治局常務委員には習氏の後継候補は見当たらない。習氏は4期目も担うつもりであるとの見方が早くも出ている。

 何より驚かされたのが、閉幕式で胡錦濤前総書記が途中退席したことだった。国営の新華社など中国側の説明によると、糖尿病などの持病を持つ胡氏の体調異変を察知した係員が同氏を支えながら退場したという。

 だが、党大会の公式行事での途中退席は異例である。そのため、党人事に不満を持っていたため、胡氏は退席させられたのではないかと臆測を呼んだ。

 その真偽はともかく、習氏は国家主席としての任期の制約を廃し、権力を自らに集めた。そして、自身と考えが合わない幹部を徹底的に排除し、周囲をイエスマンで固めた。すなわち、習氏の「独裁体制」が事実上完成したといえる。