台湾への軍事侵攻は「愚の骨頂」
習氏は合理的な意思決定をすべきだ

 最後に、中国に提言しておきたいことがある。

 習氏は共産党大会政治報告で、台湾への武力行使を「絶対に放棄しない」と述べ、武力統一の可能性を示唆した。共産党内には、習氏の野心を止められる人物はいないと懸念されている。

 しかし、中国共産党に合理的な判断能力があるならば、台湾に軍事侵攻するべきではない。なぜなら、台湾を攻撃して多くの人を殺し、企業を破壊し、独立の機運をそいだとしても、中国が得られるものは少ない。

 台湾には天然資源が豊富にあるわけではない。台湾が持つリソースとは、半導体などの生産力や技術力、それらをオペレートする人材が持つ知識である。

 その全てを破壊し、焼け野原と化した台湾を占領・統治しても、中国の産業や経済にもたらすメリットはない。

 中国と台湾は経済圏として一体化しているといっても過言ではない(第263回)。台湾経済を破壊することは、中国経済の破壊に直結する。

 さらにいえば、中国が台湾に侵攻すれば、米国などの自由民主主義陣営から厳しい経済制裁を受ける。その結果、国民が失業や貧困にあえげば、中国共産党への支持が失われる。習主席の「終身政権」の夢が揺らぐことになる。

 すでに米国は、ナンシー・ペロシ下院議長が台湾を訪問するなど、中国を挑発するかのような振る舞いを続けている(第310回)。もし中国が挑発に乗り、台湾を攻撃した場合は米国の思うつぼである。

 もし有事に至った場合、米国はウクライナ戦争のように、中国との直接対決を避けながら、台湾に武器供与などの支援を行うだろう。戦争が泥沼化し、経済制裁で中国経済が大打撃を受ければ、米国にとってはしめたものである。中国に覇権国家の座を脅かされるリスクを低減できるからだ。

 こうした観点からも、中国による台湾への軍事侵攻は愚の骨頂だ。

 語弊を恐れずいえば、中国は台湾に穏やかな態度で接しながら、その生産力・技術力・人材を「有効活用」すべきだろう。中国経済を発展させられるほか、国際社会から白い目で見られることも、経済制裁を受けることもない。

 もし習氏が、本当に台湾への軍事侵攻を決断した場合、それは世界に対して自らの力を鼓舞したいという「ちっぽけなプライド」を満たすための愚行である。

 賢明な判断ができる指導者ならば、軍事侵攻のリスクとリターンを緻密に計算し、台湾や西側諸国とうまく付き合う道を選ぶだろう。

 習近平という指導者は、そうした合理的な意思決定ができるはずだと、皮肉を込めて言っておきたい。