時代の先を読んだ省、数カ月の後れを取った省は焦り

 12月9日、江蘇省・蘇州市商務局の手配によるフランスとドイツへのチャーター便が飛び立った。これはコロナ禍以来、中国からヨーロッパへ飛んだ最初のビジネス誘致のフライトとなった。

 さらに、無錫市や蘇州市を追うかのように、常州、塩城、南京、南通、鎮江、泰州、宿遷などの地域も積極的に海外へ視察チームを出して国外の展示会に参加したり、顧客を訪問したりして、外資企業に広がる中国投資への不安をすこしでも解消できるようにいろいろと手を打った。広東省も負けずに同様の海外ビジネス誘致に視察団を相次いで送り出した。

 当時、まだコロナ感染者を収容する超大型臨時収容施設に貴重な資金をつぎ込んで大々的に建設しようとする沿海部の省があったが、江蘇省や広東省はむしろ対海外の企業誘致活動に力を注いだ。長年、日本企業をはじめ多くの外資企業が江蘇省や広東省を進出先に選んだ理由も、こうした地域の戦略判断を評価したためだと思う。

 そこで、上海市浦東新区も訪日視察団を出した。浦東にある看板企業の上海張江集団(以下、張江集団)の関係者も同行した。同視察団が春節の大型連休終了前日に上海を飛び立ったという、性急な出発には、ビジネスの新しい市場を切り開くための海外出張を3年間待ち望んでいたという心情と、江蘇省や広東省に後れを取った焦りがにじみ出ていた。

 上海をはじめとする長江デルタと深セン、広州などの都市がある珠江デルタは、中国経済の発展を引っ張る2台の機関車のような大きな存在だった。浦東は1990年代の半ばころから、ずっとこの機関車のエンジンのような役割を果たしてきた。世界中から多くの企業が進出し、投資されてきた。浦東新区は改革・革新の実需に応じ、新区内で実施する法規を制定することができるまでの特別な権限が与えられていて、上海ないし浦東が、他の都市に比べて不動の優位性をもっている。

 中国のことわざで言えば、「皇帝女児不愁嫁」だ。皇帝の娘は結婚相手に悩まないという意味から、引く手あまたのような存在のことだ。殿様商売ができるほどの余裕があるはずだ。

 しかし、それでも浦東新区の視察団の訪日旅行は、春節の休暇を1日つぶしてまで旅路を急いだのだ。国際環境の激変と中国国内の地方都市の台頭による競争が、前例を見ないほど激しくなったからだ。