「露天経済」がカギ、平凡な策が大成功のワケ

 コロナ禍による打撃は成長神話を作った中国経済に大きな打撃を与え、多くの企業が倒産してしまい、就職難の寒波が中国全土を覆っている。こうした局面を打破するために、中国政府は露店経済を意味する「地摊経済」をやろうと呼びかけるようになった。

 ただ、露店経済は「夜間経済(ナイトタイムエコノミー)」とも言い、GDP(国内総生産)への貢献度が低く、町の景観と環境の維持にもいろいろな問題を残すおそれがある。だから、その促進に抵抗感を示す地方が多い。

 たとえば、山西省晋城市では、4月に「晋城市区内では、路上バーベキューは一切禁止。違反者に対しては最高2万元(約30万円)の罰金を課す」という「通知」が出された。北京、上海などの大都市も露店経済を敬遠する傾向を持つ。

 そんな流れに反して、淄博市は露店経済を促進。「バーベキュー」という露店経済のなかでも最も平々凡々な対策で町おこしに成功した。

 淄博バーベキューがブームになったきっかけを作ったのは、コロナに感染し隔離のため同市にしばらく暮らすことになった済南大学の学生たちだった。彼らが隔離期間を終える際の最後の食事がバーベキューだったという説が広がっている。多くの若者が済南市に戻る際に、「コロナ禍が終息したら、ぜひまた、淄博に来てバーベキューが食べたい」と言い残した。

 淄博市政府は民衆に生計を立てる道を開き、市民生活も便利で豊かになれるというバーベキュー経済のプラス効果に目ざとく商機を見いだし、それを奨励する方向へ力を入れた。多くの店が並ぶ「バーベキュー庭」を作るなどしただけではなく、「バーベキュー専用列車」「バーベキューバス」「バーベキューフェスティバル」などの企画を相次いで打ち出し、市内を巡る「バーベキューマップ」も作りなおした。さらに、「淄博焼烤(淄博バーベキュー)」を商標に登録して、バーベキュー経済を流行させるためにいろいろと工夫した。

 こうした努力は地元のバーベキュー経済をさらに盛んにした。「淄博駅の利用者数は1日5万人に届く」「毎日1万本以上の串を焼く」「一晩で牛1頭を売りきることができる」といった話もある。こうした人気ぶりがほどなくしてソーシャルメディアで大きな話題となり、そのブームをさらに他の地方へも広げた。

 中国メディアの報道によると、今年3月だけで同市を訪れた他の地方からの観光客が延べ480万人余りで、前年同期比134%増、観光収入は60%増となった。