バーベキューフリーか禁止か、地方経済のあり方で議論

 淄博バーベキューによる波及効果の恩恵を受けた、山東省内の町も多い。

 中国メディアによると、宿泊予約ランキング(4月10日現在)では、青島、威海、済南、煙台が同連休期間中の全国宿泊予定トップ20にランクインしている。宿泊予定人数も2019年より800%も上昇している。淄博バーベキューをきっかけに、一帯の観光に注目度が高まっている。

 人々はSNSで自発的に地元政府と淄博市を比較して、ある種の地域間競争を熱くさせている。「バーベキューフリー」都市と「バーベキュー禁止」都市といった比較を通した議論がネット上で盛んになり、地方経済のあり方が議論されるようになった。

 例えば、「市区内では、路上バーベキューは一切禁止」という通知を出した晋城市では、「バーベキューで空が黒く染まるのか」「あの話題の淄博を見てごらん」「なぜ山東省の淄博ではバーベキューが奨励されているのに、山西省にあるわが市では無理なのか」と市民から大きな反発を招いた。世論の圧力に押された同市当局は1週間後の4月10日に、この通知をひそかにインターネットから削除した。市民の完勝だ。

 こうした論争は、さらに路上バーベキュー以外の分野へも広がった。

 湖北省襄陽市と河南省南陽市は隣り合わせの町だが、花火と爆竹の打ち上げで明暗を分けた。襄陽市は打ち上げを許可しているが、南陽市は禁止する立場だった。市政府の禁止対策に不満を覚えた南陽市民は、家族連れで襄陽に移動して花火と爆竹の打ち上げを楽しむ「南陽で稼ぎ、襄陽で消費する」という経済現象まで作った。河南省南陽市の市委書記・朱是西氏は「大きなショックを覚えた」と認め、花火と爆竹の禁止令を修正する方向に動いた。

 露店経済に消極的だった上海、杭州、北京なども姿勢を変え、奨励する方向へかじを切った。この頃、中国各地で打ち出された最新の経済促進政策も「夜間経済」「露店経済」を奨励し、消費の回復、雇用の確保を目指す経済立て直し意向を前面に出している。

 バーベキュー経済の先行者となった淄博も、バーベキューの人気を観光の目玉商品に変えようと新しい作戦に出た。同市内の十数カ所の観光地は「高速鉄道の乗車券を見せれば観光地の入場券を無料で提供する」といった優遇策を発表したのだ。目的地が淄博駅の高速鉄道チケットと身分証明書を見せれば、無料で複数の観光地の入場券を受け取ることができるようになった。同市を訪れた市外大学の大学生なら、38カ所のユースホステルに半額で宿泊できる優遇措置も実施されるようになった。

 私は、バーベキューフリーに地方経済の自己救助の努力を見た思いがした。山東省内をかなり回った私だが、淄博はまだ訪問したことがない。次回、山東省に行くときはバーベキューの夜を楽しみたい。この原稿を書きながら、心の中では早くも旅行プランを立てている。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)