約30年の「引きこもり」の末、大阪市の自宅で当時46歳の姉を刺殺したとして、殺人罪に問われた42歳男性の控訴審で、大阪高裁の松尾昭一裁判長は2月26日、懲役20年の1審判決を破棄。懲役14年を言い渡した。
昨年7月30日、裁判員裁判で行われた1審の大阪地裁の河原俊也裁判長は、被告が「発達障害」であることを理由に、検察側の懲役16年の求刑を上回る懲役20年の判決を下している。
しかし、2審の松尾裁判長は、逆に「被告のみを責められないアスペルガー症候群が影響している」ことなどから、“減刑”の量刑とした。
この男性の家庭内の事情はよくわからない。ただ、周囲の当事者の状況を見る限りにおいては、親から放置されることによって本人が追い詰められているケースが少なくない。
約30年間、家族や周囲から
“放置されてきた”男性
公判記録によれば、事件が起きたのは、2011年7月25日午後2時15分ごろのことだ。男性は、自立を求めて自宅を訪れた姉の心臓部や左上腕などを包丁で刺し、1週間後に死亡させた。
男性は、小学校5年の途中から不登校になった。以来、約30年にわたって、引きこもる生活を送ってきた。
「このまま家に引きこもっていては駄目だから、やり直したい」と思った男性は、通っていた小学校と別の学区の中学校に転校するなどして、「自分のことを誰も知らない遠い場所で生活したい」と両親に依頼した。しかし、いずれも実現することなく、それは姉のせいであると思い込んで、次第に恨むようになったという。
男性の家族は、30年にわたって引きこもる間、どこにも相談した形跡がなく、医療機関に行くこともなかったらしい。
実際、「家の恥だから」などと本人の存在を隠す家族は、潜在的に数多く存在している。そういう意味では、この男性も、小学5年のときから30年間、ネグレクト(育児放棄)の状況に置かれていたのではないかということも推測できる。