その3
「使うための貯蓄」をしていない

 貯蓄が積み上がってくればくるほど、残高を減らしたくないと思うのが人間の心理だろう。だからこそ、不意のお金が必要になったときに、その貯蓄を取り崩さず、ローンを組んだり、手数料がかかる分割払いを選んだりする。今どきは預金より借り入れ金利のほうが高くつくのは常識だが、せっかく貯めた預金を取り崩したくないとの心理が優先されてしまう。

 そういう無駄な手数料を払わずに済ませるために、「使うための貯蓄」を作っておきたい。

 急な冠婚葬祭や、家電が壊れたとき、急な引っ越しなど、想定外の事態が起きたとき用の貯蓄があると、気兼ねなく使える。最初から「使うため」としているので、メイン貯蓄を取り崩すときのような痛みも感じずに済む。物価高の今、貯蓄に回せるお金を捻出することも厳しいだろうが、毎月数千円程度でもいいので積み立てておくべきだ。

 こう書くのには理由がある。急な引っ越し代を払えず、カードローンを借りたのがきっかけで借金生活に陥ったという若者層の声を聞いたことがあるからだ。貯蓄もむろん大事だが、目的は残高を積み上げることではなく、自分の生活を守るためだ。その保険として、「使うための貯蓄」はできるだけキープしてほしい。

その4
NISAもiDeCoも枠いっぱいまで積み立て投資

 2024年から新しいNISA制度がスタートし、投資できる枠も広がる。つみたて投資枠は現状の年間40万円から120万円までに増える。また、株式も買える成長投資枠は現行の120万円から240万円と2倍に広がる。

 各金融機関はさまざまな特典を用意して、利用者を囲い込もうとしている。中でも、若年層に人気なのがクレジットカード決済での投資信託積み立てだ。積立資金をカード払いすることでポイントが付くのが魅力なのだが、ポイント目当てに積立額を増やそうと考える人も多い。現状では5万円が上限の金融機関が多いが、そもそも若年層が毎月5万円もの金額を、投資だけに振り向けるのは危ういのではないか。

〈その2〉で「身の丈に合った積立額を」と、〈その3〉では「いざというときのために使える貯蓄を」と書いたが、枠いっぱいの投信積み立てはどちらにも反する。

 毎月5万円を苦もなく出せるだけ所得に余裕がある人はともかく、多くの家計にとって決して少ない金額ではない。さらに、積み立てできるギリギリのお金をすべて投資商品にしてしまうと、「使える貯蓄」もできなくなる。「必要になったら売ればいい」といっても、投資商品は預貯金とは違い、いざ必要になって売却したときに残高がプラスになっているかは誰にもわからない。

 老後が心配だからと、iDeCoで拠出できる枠いっぱいに積み立てする人も、同じ理由で気を付けてほしい。それこそ60歳になるまでiDeCoは解約できないからだ。貯蓄では増えないから投資商品で運用をしようという掛け声ばかりで、現役時代に使える預貯金に手が回らないのは危ない。〈その3〉の繰り返しになるが、所得の少ない層こそ、いざというときのために「使うための預金」を確保しなくてはならない。